シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

遭遇

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頭の中には、泣いていた写真の男の子が浮かんでいる。

ピンぼけしている上、半分破かれている、歪な男の子。

見過ごすことが出来ない泣き顔をさらす…漆黒色の髪を持つ男の子。


桜ちゃんと話してきたせいもあるけれど、あの写真を見た時…あたしは、イチルが出て来る夢を思い出した。


いつも一緒に居た、あたしの大事な泣き虫な男の子。



名前もよく思い出せない、朧なその子と…

泣いている写真の子とだぶって見えたんだ。


――芹霞ちゃあああん!!


すると、少しずつ見えてきた。


その子のことを、イチルちゃんは"カイカイ"と呼んでいたということ。


紫堂櫂。


"カイカイ"から連鎖的に思い出したその名前。


それはもう理屈抜きに――。

あれ程あたしは"約束の地(カナン)"で否定していたというのに、多分そうなんだろうと、今度はすっと…あたしは受入れた。


悲痛な顔で、破れた写真をあたしに握らせた玲くんが言う。


――君の横に映っているのが…櫂だよ?


それが正しいことを、玲くんの言葉で確信した。


だけど、思い出のないその写真。


正月には、中野から近い高円寺によく行っていたけれど、同行者に紫堂櫂の記憶はなかった。

彼との思い出を見出すことが出来るのは…イチルとの夢の中だけ。

あれ自身、過去の記憶なのかただの夢なのかよく判らない。


ただ、イチル人形は作った記憶はあるから、妄想ではないのだと思う。

隣にいた、可愛い男の子。


それが写真の子で、紫堂櫂だと判っても――

感慨が…なかった。


その子のことを大事だと思った記憶があるにしても、それがどうしても…"約束の地(カナン)"で見た紫堂櫂の姿にはダブらなかった。


別人のように、あまりにも違い過ぎるから。


"約束の地(カナン)"で泣いていた紫堂櫂が心に過ぎる。

罪悪感のようなその記憶は、一瞬だけ…"カイカイ"と交差したようにも思えたけれど、光が散るかのように…霧散して。


ああ、カイという名前を持つからだ。

だからあたしは、あの非道な久涅ではなく、同じ顔を持つ紫堂櫂の存在の方に、心が乱されるんだ。


あの恐ろしく端正な顔からは、思い出が見えないというのに。


ずきずきと胸が痛んでいるように思えるのはなんだろう。

まるで罪悪感のような。


ああ、きっとこれは…知らないと紫堂櫂を拒んでしまったせいだ。

彼を傷つけてしまったせいだ。


だから、会いたいと思うのだと…あたしはそう思った。

もうすぐ会えるのだとも思った。


時間切れはもうすぐ。


そんな確信めいた予感は、見ないフリをして。

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