シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
ド派手な暴走族のバイクを運転するのは黒髪お下げのミス桜華。
そういえば、煌と乗ったあのバイクは、今頃どうしているんだろう?
煌と乗った時は本当にドキドキハラハラして、落ち着かなかったけれど、運転が玲くんならすごく安心する。
年上ということもあるけれど、やはり玲くんという存在は落ち着くから。
ぽかぽか温かいや。
背中しか見ていないせいか、玲くんの女装があまり気にならない。
大きい背中は、やっぱり女の子には見えない。
この人が…あたしの"彼氏"さんか…。
一人にやけて玲くんの体にぎゅっとしがみつくと、
「どうしたの?」
嬉しそうな玲くんの声が聞こえて、彼のお腹に回していた両手を一撫でされた。
「あんまり可愛いことしてると、前の席に真向かいに座らせてしまうよ?」
一瞬こちらを向いた三つ編みのミス桜華の流し目に、頭くらくら。
「ふふふ、今度…ドライブ行こうね」
今度という未来があることを普通に口にする玲くんを見て、何だかとっても心が安心した。
笑顔で頷きながら、こうした平和な毎日が続けばいい…そんな願いを口にしようとした時、
「……やはり、時間の問題だったか」
突如堅い口調になった玲くんの様子に、あたしは現実を思う。
隣の自転車の荷台には、やはり堅い顔をした桜ちゃんが、後ろを向いて立っていた。
「え、何、どうしたの玲くん!?」
「自警団ではなく…"見えない敵"がつけてきてる。高速で追いかけられたのと同じ敵だ」
え!!?
後ろを振り向けば、普通に乗用車が3列になって何台か続いている。
普通なら日常光景なのだけれど、今まで車の影が殆どなかったはずなのに、突然こんなに連なったというのはおかしい。
しかも…その車が左右の道脇に移動したと思ったら…真ん中から来た。デカいトラックが。
天井にあるのは、『にこにこペットSHOP』と書かれた行灯で。
可愛い笑ったネコのイラストが不似合いな…まるで猛獣でも乗せているような、ごつい鉄の檻のような物が遠目で見えた。
「瘴気…ッッ!!」
玲くんの舌打ちが聞こえたかと思うと――
バババババッッ
耳をつんざくような…銃音が襲った。
同時にトラックは速度を強めたから、多分また見えない敵がこのトラックの上にでもいるのだろう。
それともあの鉄の檻の中から狙っているのか?
火薬の匂いの強さといい、音も勢いも…さっきのクルクル銃とは規模が違う。
もっともっと銃弾が一斉発射できるような、物騒な銃器で狙われている。
素人女がイメージするのはマシンガンのようなものなんだけれど…なんだか大きな筒状のものが、トラックの天井から"はみ出て"いる気がする。
それも凄い数で。