シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

ババババｯｯ


あたしは思わず玲くんにしがみつくと、バイクは立て続けに向けられる銃弾をよけるように細かく蛇行した。


そして聞こえてきたのは、桜ちゃんの声。


「由香さん、蛇行しながら思い切り足でペダルを!!　自動では速さが足りない!!」


自転車が気になって顔を上げて見れば、桜ちゃんが裂岩糸で銃弾を切り裂きながら、宙に跳ねていた。


「は、葉山ボクはチャリは初…」

「貴方なら、出来ます!!　自分の力を信じて下さい!!」


桜ちゃんが…他人を激励しているのを初めて聞いたかもしれない。


「むふ?　よし、世界を救いに頑張るよ!!」


……桜ちゃんの激励で、由香ちゃんは救世主(ﾒｼｱ)になる決心をしたようだ。由香ちゃんは雄叫びをあげて、我武者羅にペダルをこぎ始めた。


「その調子!!　頑張って下さい!!!」

「ふぬ～～ｯｯｯ!!」


救世主由香ちゃんは、桜ちゃんに"調教"されていた。


ババババｯｯ


「由香ちゃん、左、左!!!」

「ひぃぃぃぃっっ!!」

「由香さん、右ｯｯ!!!」

「ひぃぃぃぃっっ!!　本当に追いかけられるとは…!!!!」



ババババｯｯ


「由香ちゃん、左…じゃなくて右!!」

「ひぃぃぃぃっっ!!　チャリ初心者に…技術を求めないでくれ～!!」


救世主の心は挫けてしまったようだ。

パニクっているのか恐怖なのか、顔を伏せたままの由香ちゃんは、足だけは、言われるがままに猛速度でペダルを踏み回している。


このままでは危険だ。

危険過ぎる。



「こっちに流れてくるのは、はっきりいってただの流れ弾。桜が全体的に銃弾抑えてくれているから、運転側に回れば…ちょっと危ないな…」



ババババｯｯ


そんな時、


「な、何、何で勝手にハンドルが動…ニャンコか!!?」


由香ちゃんの声に驚けば、カゴの中のネコが、時折どすどすっとカバンの体を揺らして…その衝撃で、ハンドルの位置を操作している…ように見える。


少し…百合絵さんを思い出してしまったけれど、その方向替えは絶妙で、自転車は銃弾を避けるように、蛇行を始めたんだ。


凄いや、あの化けネコ…。

自転車運転までしちゃうんだ?