シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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新たな問題が浮上した。

今回2回目の自転車が破壊され、残る移動手段は2人乗りのバイク。

乗りたいのは4人+1匹。

さすがに"安全第一"のヘルメット被ったあたし達が、玲くんの両脇に抱えられたままという、安全を損なう乗り方はオトメの矜持が許せなくて、抵抗した。

勿論、それが桜ちゃんでも…さすがにそれははずかしすぎる。

本当の"お荷物"じゃないか。


由香ちゃんの足は、生まれたての子牛のようにガクガクして、もう立つことも困難なようだったから、あたしは、玲くんか桜ちゃんがバイクに由香ちゃんを乗せて走って貰い、少しの間別行動をしようと提案した。


九段下の…武道館近くの更正施設は、もう少しで着くだろうし。

しかし男性陣に反対された。


バイクに由香ちゃんを乗せて、桜ちゃんがそれを押し、あたし達は早歩きしながら今後のことを話し合っていた。


肩に背負った化けネコの肉球をぷにぷにして、怒られながら。

化けネコの王様はまだご機嫌斜めで、"プイ"を敢行している。

頑張ってくれたクオン救助を後回しにした事実に、誰もが罪悪感を抱く中、あたしはクオンのご機嫌取りに…桜ちゃんの糸によるものか、或いはクオンが恐怖に四肢をじたばたした為か、ぎっつぎつだった…クオンが外に飛び出た穴の周りが緩んでいたから、いい加減本体を取出して上げようとした。


食い込みかけたバックのチャックを開け、少しばかりクオンの胴体を持ち上げてみれば。


「!!?」



そこにあったのは――

三本の…"ハゲ"。



陽斗の鉤爪はクオンをバッグごと引き裂いたのは判っている。

クオンが無事だったから確認もしていなかったけれど、命はあっても…あのふさふさが、トラ模様のように刈られていたとは。


……化けネコだから、"美"は気にしないだろうか。

いやいや、さすがにこれは、かつてのふさふさネコとして屈辱だろう。

喜怒哀楽がはっきりした…現"化けネコの王様"は、人間が思うネコの常識が通用しない。


………。


だからバッグから取出すのはやめて、チャックを閉め直した。

ふさふさが生え揃うまで、このバッグを差し上げよう。

ショックを受けないように、秘密は心に秘めて、知らぬフリをしてあげる。

それが懸命なネコに捧げる、人間様の敬意と愛情というものだ。
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