シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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「俺さ~変な夢見ちまったようでよ。櫂が舌っ足らずな言葉吐きながら、俺に抱きついてきてさ~…」


「ワンコまでありえないこと言い出してら。どう考えたって、この紫堂櫂が幼稚園児の言動になるわけないだろう?」


「そうだよな。やっぱそうだよな」


よかった…。


煌が…楽天的思考で。

そして、それに輪をかけた翠が居て。


俺は密かに安堵の息をつく。


「なあ…ひーちゃん、嘘をついたわけじゃ…」


誰も情報屋の言葉を信じない。


これも自らの…今までの軽薄な挙動が蒔いた種。

俺が手を下さずとも、勝手に自滅する。


黙っていれば、やがて真実は完全に闇に消えるだろう。


よし、黙秘敢行だ。


………。


此処に芹霞が居たのなら。

昔の俺の姿を見た途端に、大喜びして抱きついてきそうな気もするけれど。


だけど――


「もう…そんなことも、ありえないか…」


口に出せば、胸がきりきりと痛む。


あんな姿を絶対人に…とりわけ芹霞には見せたくないはずなのに、あんな姿でも俺のことを思い出してくれれば嬉しいだなんて…。

俺の心は矛盾している。


消したい姿。

だけど覚えていて欲しい姿。


今まで――

芹霞から過去を切り離したい俺は、過去を切り離せずにきた。


どんなに外貌を変え、どんなに芹霞に昔のことを口にするのを禁じていても、芹霞は…常に俺の中から昔の姿を見出そうとしていた。


それをもどかしく感じて煩悶しながらも、俺の心を宥(なだ)めていたのは…


俺だけが芹霞に与えられた――…


"永遠"、"運命"


その言葉。


俺の特別性や優位性は、過去があるからのこと。


愚かしくも、俺はずっとそれに縋っていたわけで。

ただそれだけで、優越感に浸っていたわけで。


そう思えば――

昔に執着していたのは俺の方だった。


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