シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ひ!!?」
……いや、突き刺してはいない。
かろうじて。
寸前で止まっている。
しかも自警団員は目を閉じる暇さえないまま、固まってしまい…大きく目を見開いた状況で。
「あ、僕爪伸びてる。これも罰則(ペナルティ)になっちゃうかな。ん…でもさ、突き刺す分には都合が良いよね。
突き刺すより…瞳孔引っ掻いてみる? ネコのようにさ。にゃ~お」
反対の手を、招き猫のように丸めた玲くん。
可愛い。
可愛いぞ、玲くんのネコ。
きゅんときちゃった。
だけどやっていることは、とことんえげつない。
無表情の自警団員の顔に生まれた微妙な歪みは、どんな感情なんだろう。
少なくとも、歓喜に満ちたものではないだろう。
「うーん、反応がイマイチだね。もしかして、更正施設でもっと凄いことされちゃってたのかな? 物足りないなら…そうだね、もっと…イケないことしちゃおうかな。ふふふ。直ぐには逝かせないから、安心してね」
何とも意味深な発言をした玲くん。
「皆、ちょっと目を瞑っていてくれる? 3秒後、僕が合図するまで目を開けないでね。はい、スタート」
反射的に目を閉じてしまったあたし。
直後に響く絶叫に、思わず体が強張った。
「はい、終了。いいよ、目を開けて?」
そこにいるのは、いつも通りにっこりほっこりの玲くんで。
変わったことといえば、土色の顔色をした自警団員がガタガタ体を震わせて、後部座席にあたし達を案内して…自ら運転手になったことくらい。
車内には窓には鉄格子がつけられていて、さながら収監目的の車のような物騒さ。
しかも外が見えないようになっている。
後ろからかろうじて見える運転席には、明らかに震えが止まっていない男が運転をしている。
たった3秒で、一体何が起こったんだろう?
「何だか…師匠が拷問担当って判る気がする」
由香ちゃんが引きつった顔でぼやくのが聞こえた。
目的地にはすぐ行き着いた。
だからまた車を捨てて降り立つのかと思いきや、玲くんは唇に人差し指をあてて、口を開こうとしたあたしの動きを制する。
運転席の窓が開き、隠れているあたしとしては思わずびくついたけれど、運転席の男が開けた窓から身を乗り出し、何か機械のようなものに顔を突っ込んで、何かの番号を口にした後、人差し指を機械に押し付けた。
『声紋、瞳孔、指紋認証OK』
そんな機械音が聞こえると、男は窓を上げて車を進めた。
「ニャア」
クオンが鳴いてあたしを見ている。
ふと、思った。
「玲くん、何だか…"約束の地(カナン)"のレグの家みたいだね」
すると玲くんは、目を細めて…何かを考え始めてしまった。