シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
やがて車が停まると、玲くんはにっこり笑って男の延髄に手刀を入れ、降りるようにあたし達を促した。
「僕のお願いした通り"安全な内部"に停めてくれる、律儀な"更正"具合に、ひたすら感謝」
そして崩れ落ちた男に合掌をすると、玲くんは先に颯爽と車から降りた。
そこはまるで森の中のように、木々に囲まれていた場所。
多くの若者を収容している建物は、ここからは見えない。
まるで錯綜させるのが目的の、迷宮のような森林。
「さて、こういう"サバイバル"時に役立つのは…桜の直感だ。桜、どう進めばいいと思う?」
桜ちゃんは突然話を振られて、戸惑ったように大きな目をくりくり動かしていたけれど、やがてあたりを見渡し、少し目をつぶり…そして一方向を指差した。
「へぇ…。この子も…"選ばれて"もいいわね…」
そんな声が振ってきたのは、突然のことで。
ざざっという、木の葉が踏まれるような音をたてて、一人の女が現れた。
豊満な胸を強調させる、白衣の女性。
口もとの泣きホクロが悩ましい女性。
胸元には『主任 三善』と書かれた、名刺の大きさのカード。
首からそれは、ぶら下げられている。
主任…もしかして更正施設の?
こんなにあっさり、敵のおでまし?
「久しぶりね、玲」
しかし女の言葉は敵としてではなく、玲くん限定に懐かしむもので。
緋色の唇が艶然とした弧を描いた時、そこに邪なるものを感じて、あたしはぞくりとしてしまった。
「暫く見ない間に、随分な趣味に走ったこと」
玲くんの女装のことだろう。
玲くんの知り合いらしいが、彼は何の反応もなく。
まるで能面をつけたかのような…故意的に表情を押し殺したようにして、女を見るだけ。
"随分な趣味"をも否定する気はないらしい。
鳶色の瞳に浮かぶのは…厭わしい、というような光。
決して再会を喜ぶ相手ではないらしい。
そして――。
「名前くらい呼んでくれてもいいじゃない? 昔のように、甘えた声で。それとも…気まずいものなのかしら、今のお相手の前では」
"今の"
そう強調して、あたしに向けられたのは…敵意だった。
人を値踏みするかのように、上から下まで…あたしはじろじろと眺められ、
「ふうん、なる程ね。確かに貴方相手には、"男"は必要ないわね。だって…玲が満足出来るはずないもの。どう見たって」
そして女は、勝ち誇ったようににんまりと笑った。
「貴方…玲のイク時の顔、見たことある?」
イク?
「ミサキさん!!」
玲くんが荒げた声を放ち、あたしと女の間を割った。
「ようやく名前を呼んでくれたと思ったら。嫌だわ、そんな怖い顔。綺麗な顔が台無しよ。折角いい男に育ったのに」
女は玲くんに笑った。
「ねぇ…欲求不満なんでしょう? また、悦ばせてあげるわよ」
誘うような、ねっとりとした眼差しで。
「体は覚えているでしょう? ハジメテ愛し合った時のこと」
びくり。
玲くんの体がこわばったような気がした。