シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



櫂は目を閉じ、深い苦悶の表情を顔に浮かべて、悩んでいる。


「くっ……」


櫂に選択させるのは酷すぎる。

だって櫂は…全てを救う為に、強くなろうとここまで来たんだ。


死んで、絶望して。

そこで終焉を迎えず、前に繋げるために。


どれだけ苦しんできたんだよ。

どれだけ声を上げて、こいつは泣いたよ。


助けられる者と、助けられない者。


そんな結果を望んで、そんな中途半端な覚悟で裏世界にきたわけじゃねえ。


櫂の覚悟は、俺がよく判っている。

だからこそ、触発された俺もここに来たんだ。


情報を得られませんでした。

だからすごすごと引き返してきました。


そんな結果にだけは、絶対したくねえというのに!!


「選べれないのなら、この話は終わりだ」


俺のせいだ、絶対俺のせい…。


どうすればいい?

どうすれば……。


………。

元凶は俺だというのなら。


俺がなんとかしなければならねえんじゃねえか?

俺…なに櫂任せにしようとしてるよ。


俺がしでかしたものは、俺が責任とらなきゃなんねえだろうよ。

それが"漢(オトコ)"ってもんだろうがよ。


口だけで終わるのなら、俺が玲の親父を非難出来ねえじゃねえか。

態度で見せろ、心を!!


「煌」



前傾姿勢になろうとしていた俺を、櫂の手が阻む。


「頼む。俺に全てを任せてくれ」


目を閉じ苦悶したままの櫂。

櫂の手が、俺の腕を掴み意思を伝えてきた。


何もするなと。


「お前が…全てを背負うことねえよ!! 俺が…「煌」


櫂はもう一度俺の名前を呼び、ゆっくりと目を開く。



「俺を誰だと思ってる?」



そこにあるのは…不敵な眼差し。


「貪欲な俺に…妥協はない」


俺が崇拝する『気高き獅子』。


ぞくりとしたのは…まるで歓喜。


櫂は崩れちゃいねえ。

崩れるような男じゃねえ。


玲の親父の顔が、僅かに不快そうに歪んでいた。


「たったひとつ。必ず、真実を教えてくれるんだな?」

「ああ…」


真っ直ぐな漆黒の瞳に、やや押され気味になりながら、男は頷く。



「情報屋。いや…緑皇」

「なんや」


「元…だろうが、五皇の名にかけて、今の言葉の証人になって欲しい。念のため」

「なんや、面白そうやないか。ええぞ~」


アホハットは、快く承諾する。

それを受けた櫂は僅かに微笑みを返し、そして再び玲の父親に向き直った。





「ならば――

俺が聞きたいことはひとつ」



しんと静まり返った中に、櫂の声が凛然と響き渡った。



櫂が選んだのは…何だ?





「お前は、何故ここにいる?」




そう、玲の父親に向けて言ったんだ。



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