シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
やがて男は言ったんだ。
「時間を…支配出来るように」
観念したような顔で。
「表世界ではそれが無理だった。だから…」
「人の共通意識下のこの裏世界で…、独自の世界を築こうとしたのか。
疑似電脳世界を作り、空間を支配しようとしたのか」
櫂の言葉に、男は頷いた。
櫂は何やら難しいを顔をしながら、溜息交じりに髪を掻上げている。
「ギジデンノウセカイ…?」
きょとんの俺の言葉はカタコトで。
玲がよく言う電脳世界の親戚みたいなもんだろうか。
「そこに玲が関わってくる。『ティアラ計画』と呼ばれたものは『人工生命』を研究したもの。人工生命とは…生き物の生命原理を、機械を使用して人工的にシミュレーションしたものだ。誕生、死滅、増殖、突然変異…。
それは…人間の遺伝子の模倣。電脳世界を媒体に玲の遺伝子に応用させ、外部から望むような統制を図った」
「はあ……」
俺から出る言葉はそんなものだ。
「かつて玲が、メインコンピューターの人工知能開発目的に、試験的にその原理を用いて試作した。都度手を加えなくても、勝手に学習して進化する…機械。それを呪詛に利用して、呪いの度合いを深めて闇使いである俺を弱らせようとしたのが、二ヶ月前の…『ブラッディ·ローズ』」
「え、じゃあこの男もそれに関わっていたのか?」
しかし櫂は首を横に振る。
「その時は裏世界にいたはずだ。あれは藤姫サイドのもの。裏世界と表世界は互いに干渉できない。だから今まで両者が迎合することなく、別々に存在しているのだと俺は思う。
少なくとも表世界では、『ティアラ計画』を始め、電脳世界を用いて久涅の遺伝子治療は出来なかったんだろう」
男が否定しないところを見ればそうなんだろうが…、
「なんで治療が電脳世界よ? 電脳世界ってのは、玲の力の源でもあって更には0と1しかねえんだろ? 薬でも飲んだ方が余程効果あるように思えるけど」
櫂は頷きながら言った。
「ああ。0と1…あまりにも無機質すぎたから、だから表世界に、本物の電脳世界の力を引き込み利用することが出来なかった。奇跡のような"突然変異"が出来なかった。この男の力でも」