シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
改めて周囲を眺めれば――
状況判断が難しい景色が拡がっている。
上下左右…果て無く拡がる灰色の壁。
黒にも白に至らぬ曖昧なその色合いは、不明瞭さを心に増大させ…不安を煽るだけ。
「此処は…何処よ?」
煌が途方に暮れたような声を出す。
この灰色の壁は…
無機質な石灰のコンクリートだ。
箱。
俺達は、コンクリの箱に閉じ込められている。
違和感あるのは、丸く切り抜かれた木の板が置いてあること。
見覚えある古ぼけたこの木目模様は…あの喫茶店のものに違いない。
だとすれば――
「出入口ないのに、何で俺達……あの喫茶店の床ごと、この空間に居るんだよ!!」
翠の言葉は――
「どう見ても…
密室じゃないか、此処は!!!」
誰もが感じる、純粋な疑問だ。
「がははははは!!!」
クマだけが、場にそぐわぬ豪快な笑いを零す。
「おい、アホハット!!! どういうことだよ!!!」
煌が聖に噛み付いた。
「此処は…裏世界の入り口の更に入口や。襲撃が予想外だったさかいに、緊急避難的に予定場所とは違う場所に案内してしもうたが、意味合いは変わりまへん。1つの裏世界に繋がる、多くの選択肢の1つが此処だったちゅうだけの話や」
にやりと情報屋は笑う。
「紅皇はんの頼みとはいえ、しょーもない人達を裏世界に案内したとなれば、裏世界の住人の信用を損ね…情報屋の沽券にかかわりま。
ホンマに連れるに値するかどうか…1つ"試験"させて貰いまひょ」
「「試験!!!?」」
煌と翠が口を揃えた。
「そや。元々裏世界の深層部には、簡単に行き着かせへん作りになっておる。そやから皆惑い迷うんや。そして落伍者は粛清され、真に選ばれた者のみ深層部に到達出来るんですわ。
裏世界など罠(トラップ)ばかり。こんなのまだまだ可愛い…序の口や。ならば、この程度…見事"突破"して貰いまひょ。この程度で躓(つまづ)くようであれば、裏世界に直ぐに潰されますわ」
「「はああああ!!!?」」
また、煌と翠が同時に叫ぶ。
「お前ただの案内人(ガイド)のくせに何偉そうに、勝手なことしてるんだよ!! 俺達は無駄に遊んでる時間はねえんだよ!!! 緋狭姉の案内人ならさっさと…」
「紅皇はんは、"思い切りやれやれ"言うてはりましたが? いやもう…紅皇はんたら、い・け・ず~!!!」
「緋狭姉…。ひでぇ…」
そう呟いた煌は、項垂れた頭を抱えた。