シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「それらの定義(ルール)に、優先順位をつけるのなら…まず頂点にあがるのは、"盟約"の履行」
俺は目を細めた。
「それは、人として扱われていなかった五皇を救済した、黄色の…黄皇はんとの約束や」
「その内容は?」
櫂が訊く。
アホハットは――
「複数あるが、メインは…黄幡神、羅侯(ラゴウ)を守ること」
そう言ったんだ。
「黄幡会と同じスタンスだと!?」
「何だよ、それ!!!」
櫂と同時に反応したのは小猿で、そして憤慨しているらしい小猿は、両手にチビ共を抱えながら、こちらに駆け寄ってくる。
「何で羅侯(ラゴウ)を守るんだよ!!? 羅侯(ラゴウ)は悪神、皇城はそれを封印して戦い続けてきたんだぞ!!? その部下である《妖魔》を祓い続けてきたんだぞ!!? そう皇城文書に書かれていて、皇城は古くからその教えを守ってきた一族だぞ!!?」
《妖魔》退治=羅侯(ラゴウ)退治。
そのどれも実践で活躍してねえ…自称大8位は声を荒げた。
「守るって言ったって、羅侯(ラゴウ)は封印されてるんだ!! 封印を解くってことか!!? 五皇はそんな悪い奴らなのか!!?」
アホハットは笑う。
「翠はんは可愛いなあ…。雄黄はんだけではなく、朱やんが猫可愛がりするのがよう判る」
満足そうにうんうん頷いているけれど。
直後――
「純粋で穢れをしらない…"世間知らず"」
アホハットは、酷薄めいた顔になった。
「五皇とは…対極の位置にいる、恵まれた…厭わしい人間」
まるで憎悪を向けるように。
寒い。
空気を凍えたように感じたのは俺だけではないらしい。
小猿がカタカタ震えだした。
ちなみに、同調しているらしい小小々猿も、寝ながらカタカタ震えている。
おい、主守らずに眠りこけていいのかよ。
そう思うけれど、突っ込みはやめた。
正直、それどころじゃねえ。
「それでも…まあ、ひーちゃん選んでしもうたからなあ」
そんな謎めいた言葉を放ったアホハットは、いつも通りのチャラい顔つきに戻り、けらけらと笑う。
しかも小猿にウインクまでくれてやっている。
小猿は今にも吐き出しそうな程、顔色が悪くなった。
「選んだってなに…「黙秘や」
出た、必殺"黙秘権"。
そこに少し緑皇の表情を混ぜ込んで、答えの開示は絶対拒否した。
個人情報は教える気はないらしい。
「そしてその盟約の履行期には、黄色の外套を纏った仮面の男が現われて知らせる。黄色い蝶を追いかけながら」
「ちょっと!! 羅侯(ラゴウ)は……」
まだまだ憤る小猿の口を、櫂はそっと指をあてて"黙"のジェスチャーをして黙らせた。
さながら猿の調教のようだったけれど、細められた切れ長の目は遠い所に向いて、気にもしていないようだ。
「……黄色い…外套男…蝶…」
櫂が反芻するように呟く。
見慣れたはずのそれは五皇に関係あったと?