シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「黄皇と裏世界とはどんな関係がある? 裏世界が黄皇に従属する理由は?」


五皇ではなく"黄皇"に限定した櫂の問いに、アホハットは言った。


「この裏世界を、表で生きれぬ者達の救済場としたのは…黄皇はんなんや。表からスカウトし…ここで"生かせた"。初期は混沌めいていたにしろ、この場所は救済には変わらへん。

今では黄皇の存在を知る者は少なくなってしもうた。人間やさかい、寿命を迎えて代替わりが行われるから仕方がないにしても、寂しくなったものやなあ、夢路はん」


突然話を振られたこけしは、ただ寂しげに微笑んだ。


「夢路を救い、この世界に連れてきたのは…黄皇だったのか」


こけしは否定しなかった。


「黄皇が救っていたのは、此処だけではあらへん。黄皇はんは五皇の境遇だけではなく、五皇ひとりひとりの闇を救ったお人なんや。人以下の扱いを受けていた五皇に、色という…特色をあたえたのは黄皇はんや。そこから五皇は、人として扱われるようなった」


それまではどうだったんだろう。

このアホハットは、黄皇現役の際にも緑皇だったんだろうか。

何かを思い出すような眼差しからは、前代からの伝承…だけではない気がする。


「全ては黄皇ありきの五皇なんや。だから黄皇はんの"黄の印"に縛られようと五皇は構わへん。むしろそれ以上のことを奉仕したいのが真情のはずや。その恩義は代替わりしても伝え続けておる。そして黄皇の意思を尊重し、遂行続けておるんや。元老院に忠誠を誓っているのは…黄皇の意思のひとつ」


五皇のスタンスは、元老院至上主義に見えて、実は黄皇の意思によって統制されている…ってことらしい。

五皇が同じ五皇に制される。

それはおかしなこととも思うけれど、俺だって幼馴染で仲間である櫂を主人にして生きたいと思っている。

感覚的には同じなんだろう。


ただひとつ、決定的な違いは――


「"黄の印"とはなんだよ?」


櫂は俺に"強制"しない。

俺は櫂の意思を尊重したいが、櫂だって俺の意思を尊重する。

五皇には、そんな相互関係が見えない、不吉な単語が核にある。

だから、いかに五皇が黄皇の偉大さを説こうとも、"支配"されているのだと思ってしまう。



緋狭姉の背中にあった、痛々しい刻印。

あれがいいものとは俺には到底思えなかったんだ。


あれは呪い、だ。


ただの模様ではない。

かつて"約束の地(カナン)"で芹霞が見せた…肉体を蝕む邪痕としか思えない。


だけど――。


「偉大なる黄皇はんの力の顕現。五皇が黄皇はんに恩義を感じて忠誠を誓う限り、それは五皇を対外的にも守り続けるが、五皇は盟約を履行する義務を負う。その印を枷ととるか、名誉ととるかは受け手次第」


アホハットも、久涅も、緋狭姉すらも。

ためらいなく背中を見せたのは、彼らにとっては、枷とはなりえねえってことらしい。

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