シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
調子に乗る叔母は、僕に手を伸す。
白蛇のような手をくねらせて、誘惑しようとする。
「可愛かったわ…玲。動く私の下で…貴方の白い肌が赤くなって、やがて耐えきれないというようにふるふる震えてきた時、私…」
「黙れ」
僕は毅然とその手を払った。
心の底から込み上げる侮蔑は、思った以上に僕の声を低くさせた。
「あっちゃあ…フェミニストの師匠が、ぶちぎれたみたいだよ。神崎は、あのままずっと"かかかかか"だし…。どうしよう、葉山…」
「玲様……」
「何で怒るのかしら? 私達、何度体を重ねたと…「黙れと言っている」
拒絶。
かつて流されるしかなかった僕は今、明確な拒絶をしている。
そんな態度をとられるとは思っていなかったらしい美咲さんは、顔を青ざめながらも、まだ口を開く。
ここまで執拗なのは――。
「ねえ…まだ体が、"私"を覚えているでしょう? 疼くでしょう? 貴方を"開発"したのは私。私達体の相性が…「紫堂当主に伝えろ。同じ手には乗らない。永遠に」
紫堂当主から放たれた…"刺客"か。
僕という個体よりも、僕の精子を…僕の遺伝子を。
「ひゅ~。非常に怖いけど格好いいな、痺れるぜ師匠!! な、神崎……って、だからなんでまだ下向いて"かかかかか"なんだよ? ここは毅然とした師匠を見とくトコだろ!!?」
紫堂当主が道具に使っているこの女にとっても、僕は…道具だ。
僕の存在は…一体なに?
「僕を甘く見るな」
昔の相手なら、簡単に絆(ほだ)されると思っていたのだろうか。
そこまで僕の、芹霞への想いは軽んじられていたのか。
この女なら、芹霞に勝るとでも思われたのか。
冗談じゃない!!
「女が抱きたくて、芹霞を必要としている訳じゃない。女なら誰でもいいわけじゃない。僕の想いを見くびるな」
「神崎~、聞けッッ!!! "かかかかか"は後にして、聞くんだッッッ!!!」
「ゆ、由香さん…!! 芹霞さんの肩を揺らしすぎですって!!! 芹霞さんには聞こえてます!! 顔が真っ赤ですから!!!」
「へ!!!? 聞こえてて、それでもまだ"かかかかか"!!!? っていうか、何で"かかかかか"!!!?」
「玲…私、貴方のことが…「まだ言うのか? その口…切り取ろうか?」
冷めていく。
心が冷え切っていく。
まるで……拷問時のようだ。
僕の残酷な面が表に現われる…あの瞬間のよう。
――玲。
ほら……また母が囁くんだ。
――お母様の処に…さあ…。
狂った母が、僕を誘うその世界に、僕は――。
「神崎!!?」
そんな僕の腕を引いて止めたのは芹霞だった。