シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ねぇ…貴方には"覚悟"があるの?」
不意にそんな謎めいた言葉を向けた先は、僕にいまだ抱きついている芹霞へと。
僕を懐柔出来ないと判るや、矛先を変えようとしているのか。
そこまで芹霞と引き離したいのか。
「今なら引き返せる。玲と別れなさい。
貴方みたいな世間知らずと玲は…釣り合わない。
幸せな未来が待っているという幻想は、捨てなさい」
僕は――
「貴方は玲の重荷になり、玲も貴方の重荷になる。
貴方みたいな小娘では、
――無理」
美咲さんの影に、当主の姿を見た。
僕のなにを知っているというんだ。
芹霞のなにを知っているというんだ。
「私の言うことを聞きなさい。
傷つきたくないのなら」
含んだ笑いを見せて芹霞に手を伸す。
「貴方には、もっと相応しい男がいるんじゃないの?」
――!!!!
怒りに震えた芹霞が発しようとした言葉より、更に体中の温度を低下させた僕が動こうとしたより早く――、
「きゃっ!!」
短い悲鳴を上げたのは、美咲さんで。
「ニャア!!! フーッッ!!!」
芹霞のそばに立っていた桜の…その肩に下げている化けネコカバンが、突如振り子のように自動的に半回転し、美咲さんが伸したその手を引っ掻いたんだ。
化けネコは、最小限の動きでカバンごと大きく動かす技を身に付けたらしい。
………。
ぐうたらが進化したというべきか、驚異の化けネコ技を洗練しているというべきか。
さすがの桜の顔にも、驚愕の表情がくっきりと。
「……くっ!!」
僕の記憶残る美咲さんの手よりも、幾分荒れたかようなその手の甲にも、ネコの爪痕がくっきりと。
やがて赤く滲んで、血が滴り落ちる。
「ニャン!!」
ざまあみろと言わんばかりの、勝ち誇ったような表情の化けネコ。芹霞を害するものには、どんな化けネコ姿をさらしてもいいとする…ネコらしからぬその一途さと侠気に、僕は苦笑してしまった。
どうして普通のネコのように振る舞わないのかが謎だけれど。
美咲さんは半狂乱気味に、化けネコに怒鳴った。
「何をするのよ、ネコの分際で!!」
「フーッッ!!」
「やる気なの!!? ネコのくせに」
「フーッッ!! フーッッ!!」
………。
まるで…子供の喧嘩。
お互い余程頭に来てるんだろう。
自分は大人の女性ということも、相手は"ネコ語"しか話せない化け物だということも、気づこうともしていないようだ。