シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ストラップ…」
芹霞がいる手前、触れないようにしていたけれど、確かに無くしてしまったものがある。
芹霞自身…気づいていないようだけれど。
「これじゃない?」
それは今……美咲さんの手の中にある――。
「あ、あたしがプレゼントした…ティアラ姫!!!」
「それは…ブチャイクワンコの頭に突き刺さっている星冠(ティアラ)を取ったら…USBになる奴だよね!!? そういえば…師匠の携帯についてなかったね!!?」
そう……僕が改造した、世界でひとつしかないストラップで。
「何で私が持っていたのか…判る?」
その声に誘われるように、僕は記憶を巡らした。
ストラップを無くしたのは……。
「紫堂の……僕を実験していたのは、この研究所?」
目隠しをして連日連れられていた…その場所で、僕はポケットから飛び出ていたらしいティアラ姫を、誰かにひっかけてしまったらしく、体の自由を奪われた遠い意識の向こうで、引きちぎられる音だけ聞き…すっと意識を無くしていたんだ。
ないと気づいたのは、紫堂への帰り道。
次回に手に入れようと思いながら、幸か不幸か次回は先延ばしになって、今に至っている。
まさか…此処でそれを目にするとは。
「ゴミ箱に捨てられていたのを…拾って置いたの。はい、返してあげる」
ゴミ箱の中のこれが、僕のものだと認識出来ると言うことは……あの実験には…美咲さんも立ち会っていた可能性が高い。
このUSBメモリには、様々な場面で役立つ簡易プログラムが入っている。
これから僕のメインコンピュータに代わる機械を手に入れに、更正施設に忍び込もうとしていた僕に、今返すということは……どんな意図があるのだろう。
僕はティアラ姫を握りしめ、疑いの眼差しを美咲さんに向ける。
「玲。私は機械は操作出来ないわ。無論、他人の手にも触らせていない」
信じるべきか、信じないべきか――。
「ま、疑うようなら使わなければいいだけじゃない? 私だって、そんな可愛くないもの持っていたくもないし」
それを持っていた理由はなに?
「か、可愛くない!!? ティアラ姫はあたしの心のオアシ…」
「神崎、落ち着け!!! 忘れてた存在がなんでまた蘇るんだよ? く……ボクも同意しちゃうから、立場的に辛いぞ。葉山、手伝ってくれよ!!」
僕が行こうとしていたのは自警団の更正施設。
そこにあるはずの巨大サーバーを動かす目的であると同時に、今は市販されていない…『ジキヨクナール』が"蠱毒"となりえる理由を確かめにここに来たんだ。
ああ、朱貴は…"判っていた"から示唆したのだろうか。
それらもまた、僕に関係あるということに。
だから確かめろと言ったのだろうか。