シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「私なら、貴方達を何処の建物の中にも案内してあげれるわ。堂々と中を歩かせて上げる。言っておくけど、建物内の侵入者に対する設備は、半端じゃないわ。貴方と男の子ひとりと女ふたり、建物に入ったが最後、"追いかけっこ"という時間の浪費で終わるわよ?」
「ニャアニャア!!!」
「判った判った、玲くんと桜ちゃんと女ふたりと化けネコ一匹。それでいいね?」
「化けネコと言われるのは、納得しちゃってるんだ…」
にやりと笑って僕を見つめている美咲さん。
彼女は、僕達が此処に行き着くことを判って、あらかじめ待ち構えていた。
その上でUSBメモリを返し、建物の実態を晒すことを積極的に支援しているように見える。
協力的?
紫堂当主の影を引き摺りながら?
僕の為じゃない。
中に入れろと…彼女は指示を受けているに違いない。
中にあるのは罠……?
ならば回避した方がいいと思った時、美咲さんは言ったんだ。
「お友達も、待っているわよ?
ふふふ、可愛い黒髪の…女の子。男の子の口調の」
「紫茉ちゃん!!?」
「七瀬!!!?」
真実はどうなのか。
「ついてくるわね?」
幾許か翳りが出来たような彼女の顔に、僕は気づかずして…、
「ひとつだけ聞く。居るのはその少女だけか?」
「……。いいえ、煉瓦色の…ウェーブかかった髪を持つ、綺麗な男もいるわ」
その言葉が偽りの可能性は高い。
何処にも信憑性がなく、ましてや美咲さん自身、信用出来ない。
だけど僕は――。
否、僕達は――。
「「「行こう」」」
朱貴が中に居るかもしれない……、その可能性だけで進むことにした。
正体不明な朱貴。
だが美咲さんよりは余程信頼感がある。
それは、緋狭さんが選んだ…紅皇だから。
ならばここは、緋狭さんの…紅皇という名にかけて、それを導きとして進むべきだと…そう直感したんだ。
同時に思った。
此処は…僕が目をそむけてはならぬ場所だと。
それがどんな真実が隠されていても、僕はそれを認識しなければいけない。
紫堂玲という、ひとりの男として。
――そう、思ったんだ。