シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


半透明の蚕の中で、何かが胎動していたのは記憶している。

だけどその正体を見届けたことはない。


「それは一体何なんだ!!?」


周涅が高笑いをして言った。


「異空間のもの……って言えばいいかなあ? ははははは」

「異空間とは!!!?」



「つまり…此の世にはあらざらぬものさ。黄色い蝶のようにね。まあ……存在意義は違うけどね」

「何でそんなものが存在出来る!!?」


「だったら聞くけど、玲くんの力の源ってなにさ? 何処から力を貰っているの?」


「それは……」


電脳世界もまた、異空間。


「電脳世界を身近に感じている君が、異空間を否定するなんておかしいねえ? 

此の世は…繋ぎ合せで出来ている。その綻びの隙間から、君は0と1を感じて利用しているじゃないか。それと同じこと。

それが見えるか見えないかの違い」


「0と1とは意味は違う!!」

「へえ…0と1は害はないって言うんだ? 0と1があるから、虚数っていうのが出来たんじゃないの?」


愉快そうに嗤う周涅。

僕は言葉に詰まってしまった。


「害があるかないか、何をもって害となすかは、それを利用する者の主観だよ、玲くん。実際この蛆だってさ…君ら襲ってないだろう?」

「!!!!」


確かに――そうなんだ。


「何でこれは、人を襲わない!!? 偃月刀もないのに」


僕の記憶している蛆は、人を食べたんだ。

それを叩き斬れるのは、煌の偃月刀だけで…。


「はははは。何だ、蛆に対しての有効手段は……ワンチャンの武器の方だと思ってたんだ? こりゃあいいね~」


え?

武器ではなく――

煌自体が、蛆に対して有効手段だったと!?


「あの馬鹿蜜柑が蛆を吐いて…無事だったのは、意味があったのか…」

「煌……」


桜と芹霞の声が重なった。


「だったら、煌もいないのにどうしてこの蛆は平気だ!!?」



美咲さんが今だ吐き続ける蛆は、攻撃性がなく。

ただぴくぴく動くのみで害はない。


だからこそこうして、平然と話をしていられるんだ。



「玲くん、蛆がどうのは今関係ない」



そう言い切ったのは芹霞だった。

芹霞は美咲さんの前でしゃがみこむと、


「苦しかったね。辛かったね。……怖かったね」


そう声をかけて、美咲さんの背中を撫でた。


「煌も怖かったろうな。あたしも同じ立場だったら怖い。体から蛆が出て来るなんて。生きた体が…崩れていきそうで。生きているということを否定される現実は、耐え難い」


芹霞……。

頬に流れたその涙。

ただの同情だけではないのだろう。


思い出しているはずだ。


きっと、櫂のことも少しずつ…。


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