シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
――坊、私が"約束"で縛る限り、聖は裏切らぬ。
――聖の指示に従え。
その言葉故、遠坂を玲の元に連れることを許可した俺。
"縛る"という言葉を用いた緋狭さん。
そうしなければ、聖は敵にも転ぶという意味だったのか?
敵とは…誰のことだ?
そして――
紫堂から帰ってきた聖の服装が相違していたこと。
現われたシルクハット、模様が変わった半纏。
そこから推測出来るのは、
聖は氷皇に会ってきたのではないかということ。
――あははははは~。
あの半纏のデザインは…間違いなく氷皇だ。
しかし判らないのは、ARES=IOA。
玲の好きな有名デザイナーが、氷皇と何で提携しているんだ?
デザイナーとしての矜持というものがないのだろうか。
謎のデザイナー、ARES=IOA。
その詳細は今度玲に聞くとして。
まずは聖の行動だ。
予(あらかじ)め用意していた服装に着替えてきたという可能性もあるけれど、どちらにしろ氷皇と接触はしていたことは変わらないだろうし、それを"見せつけた"理由が釈然としない。
もし氷皇が聖と接触していたとしたら。
もしもその事実を明示していたのだとしたら。
俺達の前ではなく、聖の前に現われた…氷皇の必然はまた、聖の必然にもなりえている事実。
一流とはいえ…"遣われている"だけのたかが一介の情報屋が、五皇である氷皇紅皇共に、必然の行動がとれる理由は…偶然と言ってもいいものなのか。
情報屋の行動を必然ととるのなら。
それは五皇の指示か、
情報屋自らの意志か。
どちらかで考えれば、情報屋の実体が変わっていくんだ。
コンコン、コンコン…。
音に顔を向ければ、煌と翠が…コンクリート壁の至る場所をノックしている。
「なあ、ワンコ。叩いた"音で"空洞"を見つけるなんて、中々良いアイデアだよな。だけど…俺の耳が変なのかな。どれもこれも同じ音しか聞こえないや。ワンコは?」
「お前もそうか。どう見てもコンクリなのに、何で何処もこんなに軽い音しか聞こえねえよ? コンクリならもっと重い音しねえか? まあいい。もっと違う"異常"音があるかもしれねえ。きっと其処が出口だ!!! よし、くまなく叩いてみようぜ?」
煌は…一生懸命考える気になっている。
煌がやる気を見せれば、翠も積極的に動く。
連鎖反応をみせる面白い間柄、是非とも相乗効果を期待したい処だ。
コンコン、コンコン…。
コンコン、コンコン…。
本当に…軽い音。
軽すぎる…音。
俺は目を細めた。