シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「緋狭は……朱貴に紅皇職を譲った」
「朱貴が!!?」
翠は驚いて飛びはねた。
「何で朱貴なんだ? そこまで接点があったのか、緋狭さんと」
「知らぬ仲ではない。まあ…簡単に言えば、朱貴は隠れ蓑。"特殊"だからてっとりばやかったんだろう。
後継者を死に目に遭わせるほど、慈悲の紅皇は冷酷ではなかった。後継者がすぐにでも"試練"をクリア出来れば、すぐに黄の印は移譲され緋狭は楽になれるが、緋狭はそれをよしとせず…ただ苦しみだけを我が身に負った。
儀式を開始した時点で、後継者の意思関係なく…黄の印はその五皇が指定した後継者に、強制的に移行を始める。後継者が試練をしない、或いは試練に耐えられねば、黄の印は罰則(ペナルティ)とでもいうべき凄まじい反動力を持って、儀式をした五皇の体に苦痛を刻み返す。
緋狭は後継に試練を与えぬつもりだ。今の状況なら、やがてタイムオーバーを迎え、間違いなく緋狭は死ぬだろう」
ぎりりという、煌の歯軋りの音が聞こえた。
「タイムオーバーまでのその時間の…僅かなタイムラグ。緋狭はそれを利用しようと、ここに戻り、心身の消耗を抑えるために囚われ、同時に表世界を守る時間を確保した」
「あ? 緋狭姉が守ってるって…倒れて死にかけているんだぞ!!?」
情報屋は声を立てて笑った。
「あの女は用意周到だ。既に力の半分を…"約束の地(カナン)"で用意した"もの"に注いでいる。その為に今、本体の消耗が激しい」
"約束の地(カナン)"で用意したもの?
それが何かは判らないけれど、そんなものが存在するのなら。
「それを緋狭さんに返せば、緋狭さんは…力を取り戻せるか」
それは希望。
「それだけではまだ足りない」
しかし情報屋が、闇を広げる。