シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「緋狭の黄の印は、緋狭の意思関係なく…緋狭が後継に思う男の背中に移譲中だ。薄いであろうが…今、2者に印がある状況。
合計6名の五皇がおり、このままでは盟約が果たされない。雄黄が出てきた今、黄の印は雄黄の意思で…どうとでもなる。つまり、五皇の命は雄黄の手の中にある」
「ちょっと待ってよ、聖!!! 何だかその話の流れだと、兄上が五皇を脅すみたいじゃないか!! 兄上は高邁な精神を持ち、慈悲深いんだ!! そんな悪人なこと……」
「お前がどう思おうが、現実は現実。現に雄黄は……紫堂を使って、五皇封じの策に動いている」
「紫堂……を使って?」
「自らうちたてた、『羅侯(ラゴウ)を守る』という盟約の履行を、黄皇は妨げようと動き始めた」
――え?
「そして、羅侯(ラゴウ)を封じる為の礎となり、死ねと命じてきた。それを盟約とし、早く履行とせよと」
「「「何だって!!?」」」
「それを伝えてきたのが、黄の下僕の氷皇」
「下僕――?」
――あはははは~。
あの男が?
「ああ。あいつは、黄色の狂信者。黄色の命令だけは忠実にこなす。あの男は、黄色の為だけに存在する」
雄黄と…氷皇が?
俺の頭には、結びつかない。
それにそこまで忠実だというのなら、氷皇ではなく…次代黄皇を名乗っても良かったのではないだろうか。
まあ…あの青づくめで、黄色を言われても違和感はあるだろうが……。
情報屋は、固まったままの翠を見た。
「"羅侯(ラゴウ)を封じる為に死ね"。どうだ、羅侯(ラゴウ)退治の皇城に染まった…兄上らしい命令だろう?」
「……っ」
翠は言葉を詰まらせ、俯いた。
「しかし緋狭はそれをよしとしなかった。現五皇が生きている限り、黄の印は有効なのだとすれば。それ故に盟約を履行する義務を負うというのであれば、黄の印の加護を得ない……そんな時間を創り出そうとした。
だからこそ、黄皇を除いて六皇いる状況は……緋狭の苦肉な時間稼ぎでもある。だがそれはあくまで建前であり、雄黄が本格的に力を用いて動き始めれば、意味はないだろう。だが今の雄黄には、まだ力は戻っていない」
事故の後遺症だろうか。
「黄の印を持つ者は、黄皇の命令を背くことが出来ない。よって背くために実際動いた緋狭は今、ひとり、黄の印から罰則(ペナルティ)を受けている状況だ。継承儀式で印を傷つけても、普通は電子盤は見えない。見えたということは、緋狭の心が今の雄黄を完全に裏切っているからだ。
五皇を継承する為に地獄を生きた我々の体は、0と1の力によって救済された。その力の名残が肌に浮き出るということは、その力を弾き飛ばして、本来あるがままのゼロではなく、より地獄に近いマイナス…虚数へと、正常な細胞が失われているからだろう。あの電子盤は――肉体に刻まれた、昔の恐怖の再生でもある」
「緋狭姉……」
煌の顔が深く翳った。
だとすれば――。
「緋狭さんを救う為には、彼女が力をわけたものを探して緋狭さんに少しでも力を戻すだけではなく、履行を望む黄皇が望む形に…五皇を5人にする為に、黄の印を持つ者を…」
「そう。
――殺せばいい。
ただ……その後の命の保証はないがな」
情報屋……緑皇は、冷淡に笑った。