シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「ありえないよ!!」


翠が悲痛な声を上げ、俺の手を払う。



「だって兄上は、皇城の奥の院に居たんだ。ずっとずっと皇城に居て、数ヶ月前の大災害の前まで、御簾から手を出して俺の頭を撫でて、頑張れよって声をかけてくれて…昔と変わらず、俺を可愛がってくれてたんだ!!」

「………。御簾越しだろう? 姿を見たのか?」


「見てはないけど!! だって見れないんだよ、その頃は父上が忙しくて家に居なかったから、御前代理で兄上が当主が居る奥の院に入れば、誰であろうと御簾を通しての接触になると皇城文書の掟にあるから!!」

「……そこに周涅はいたのか?」

「居たけど!! 俺、事故にあって集中治療室に居た兄上を見たんだぞ!!? 心電図だって動いてたし、火傷だらけで包帯してても、その手が俺の声に反応して、ぴくって動いてたんだ!!」

それは芹霞が入院していた、紫堂系列……東池袋総合病院。

紫堂次期当主の俺や、芹霞の担当医として芹霞と病院に寝泊まりしていた玲にも気づかれることなく、VIP病室である芹霞の病室の…更に上階に隔離されていたという皇城雄黄。

俺が引きおこした"災害"に巻き込まれ、そして車に同乗していた…雄黄と翠の父親、元皇城当主である御前は死に、雄黄は一命をとりとめた――そういう話であったはずで。

そして回復した雄黄は豹変し、可愛がってきた翠を疎んじ、親父に接触して玲に婚姻させようとし、更には大三位である周涅は、煌や桜に接触してきている。

翠は確かに、雄黄らしき姿を見ている。

しかしその詳細は、いつでも不確かで。


更に言えば――、


「……なあ、皇城というのは、結界を張れないのか?」


あの災害を引きおこした張本人が言うのもなんだが、紫堂より格上の…異能力を持つはずの皇城№2が、№1共々…大事故に死亡、或いは命に関わる重傷になるのだろうか。


「結界は…俺は出来なかったけれど、兄上が出来ないはずはないと思う。俺が怪我した時治してくれたし…本棚が崩れて俺に本があたりそうになった時、少し離れた場所にいた兄上が守ってくれたし…」


だとすれば、病院で翠が会ったというのは――

雄黄ではない。


事故に巻き込まれたのは、雄黄ではありえない。


そう考えればその前に、皇城家での御簾越し、僅かなりとも翠と接触した相手は、そして翠に兄だということを信じさせられた者は。

< 1,094 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop