シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「そ、そんな…。あれが…朱貴だなんて……」

「それだけ、やはり朱貴は雄黄に似ていたんだろうな。姿形というよりは、醸し出す雰囲気が。だからお前は朱貴だけに懐いたんだろう。お前の心は、最初から雄黄と朱貴を同質とみなした」


「………。で、でも…兄上は、当主代理になってからは、昔ほどは妖魔狩りをしていなかったけど、でも妖魔退治を…」

「雄黄の姿は、皇城の者であればどんな下っ端でも顔を見れるのか?」


翠は頭を横に振る。


「俺は弟だから特別だけれど、実際は位階上位者…それも大五位くらいまでしか、間近で顔を見て話すことが出来ないよ。後は遠目で見てるだけ」

俺は薄く笑った。


「妖魔狩りとやらの実戦にまで、位階のない朱貴が狩り出されたかは怪しい。実力があるとしても、雄黄並みの…現役術者としての戦果があげられるとは思えないからだ。それに戦う姿というのは個人のクセが出るから、お前以外にも雄黄ではないと見破られてしまう可能性もある。

そんなリスクを考えれば、大5位までの中で、雄黄のクセを見知っている者が、雄黄の"影武者"を演じていたのかもしれない。

これは想像だが…朱貴は対お前への為だけに奥の院に呼び出されていたと思う。そして朱貴はやはり皇城とは確執がある。だから…大三位の周涅が常に監視として控えていた。

俺の推測は、間違っているか、緑皇」


緑皇は、無表情のままで口を動かした。



「間違っていない。雄黄は…死んだ。だからこそ、五皇は雄黄の死を悼み、嘆き…なんとしてでも盟約を履行させるつもりだった」




「そんな……」


翠の目から、


「兄上……」


ぶわりと涙が溢れた。


「兄上は強いんだ。兄上が…なんで…」


俺は翠を片手に抱く。


「好きな者が死ぬのは辛いが…その死に様を見ていないだけ、まだマシだと思ってくれ。

お前を可愛がった雄黄は…お前の心に生き続けている。お前を疎んじる今の雄黄は…偽者だ。本当の雄黄ではない」


俺には、それしか言えないけれど。

その事実は、兄を心酔する翠の、支えになるはずだから。



そして――

また新たなる問題が浮上することになる。



< 1,096 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop