シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「五皇が崇めているのは、五皇を救った昔の雄黄。そして彼が黄皇職を離脱した後も、豹変した雄黄を見てもなお、五皇が黄の印に縛られ続けることに明らかな抵抗を見せていないことが気に掛かる。例え魔方陣の破壊が困難であったにしても、だ」
俺は玲の父親を見据える。
「お前とて、ようやく助かった愛するわが子を、みすみす…黄の印とやらに殺されたくないはずだ」
くっと…男の唇が噛みしめられたのが見えた。
「そこが、お前がいまだ此処で電脳世界に触れようとした大概…理由であるならば、同じく電脳世界を必要として協力していた五皇とて、思惑があるはずだ。単純に、昔助けられた…"偉大な力"に畏敬しているのではなく」
ゆっくりと緑皇に目を移す。
「緋狭さんは、彼女らしくない方法で雄黄に抵抗した。そんな緋狭さんや、玲の父親に裏で協力するのなら、何故お前も…他五皇も、一緒に雄黄に抵抗して、魔方陣破壊に直接動かない?
動かないのは――それだけの意味があるとしか思えない。つまり、魔方陣は五皇の力を持ってしても破壊できない。それは魔方陣を作ったのが黄の印を施した者と同じだから…などという、物理的な問題だけに留まらず、生前の雄黄が望んだものを壊すということに、心理的な葛藤があるのではないか?」
僅かに細められた緑皇の目は、少しだけそらされる。
肯定なんだろう。
「だから…五皇ではない俺達を巻き込んだのか? "約束の地(カナン)"の魔方陣を壊せたから」
俺達が"約束の地(カナン)"に遣わされたのは、試されていたのだろうか。
「………」
緑皇は目をそらしたまま、答えない。
何でこんなに悲壮な表情をするのだろう。
単純な理由だけではなく、個人的にも何かあるんだろうか。
その理由を、緑皇は口にしない。
「なあ櫂。魔方陣を破壊することで、緋狭姉の苦しみを少しでも軽く出来るのなら、さっさと表に戻って、あの時みたいに玲と壊そうぜ?」
煌が、思い詰めたような表情で俺に言う。
「死者を蘇らす魔方陣を破壊すれば、黄の印を施した死者たる雄黄は死に、五皇の縛りはなくなる。だが」
――何だよ。
「久遠は……白皇が作った"約束の地(カナン)"の魔方陣はどうなる? 無関係か、あれは」
どうか、どうか――。
緑皇が目を合わせてくる。
そして言ったんだ。
「それも……数に入れねばならない。
全ての魔方陣を対象に、雄黄は術を施した」
祈りにも似た心は打ち砕かれる。
だとすれば。
「緋狭さんを助ける為に、今の雄黄を倒そうとすれば、その魔方陣で生きている久遠が犠牲になる…そういうことか」
「然り」
くらりと、眩暈を感じた。