シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
以前の雄黄は――
憐憫ではなく、五皇の心を救った。
それは、口先だけではなく、きっちりと…心を形に表わし、信じさせたのだろう。
だからこそ、五皇は雄黄の黄の印を捨てようとはしない。
緑皇は言った。
「五皇は、あの雄黄の想いを継承する。
お前達が五皇のひとり、緋狭を救おうとするのなら…お前達もそれ相応の覚悟をして貰わねばならない。
ただ聞いて考えるだけで解決出来るというような、そんな甘い考えなら捨てろ。どんな犠牲の可能性があろうと、動じるな」
「けど……久遠が…」
煌が頭を掻いた。
「五皇は縛りがある。しかしお前達にはない。そんな自由な身で…ハナから出来ないなど、言うんじゃない」
やれと。
どうしてもやれと。
それは攻撃的な視線というよりは、切実なもので。
黄の印が、雄黄への忠誠を示すものだというのなら。
それにそむいた緋狭さんが、重篤状態なのだというのなら。
今の五皇の現状を…、
――だから五皇は、あの雄黄の想いを継承する。
宣言した緑皇はどうなる?
何でこのタイミングで言った?
緑皇は――
意思を言葉にした時点で、雄黄を裏切ったことになる。
つまり、黄の印からの罰則(ペナルティー)を受けることになるのではないか。
そしてその時期は唐突で。
僅かな猶予も与えずして、緑皇が苦悶な表情をしたかと思うと、その体が…無防備にも大きく横に揺れたんだ。
まるで貧血で倒れるかのように。
「アホハット!!?」
煌が抱きかかえるが――
「は? 背中…血、お前血が出てるじゃねえかよ!!?」
その手は赤く染まっていて。
緑皇は煌の手を払い、自力で起上がる。
「俺に触るな」
ぐらり。
今度揺れたのは――
緑皇ではなく、俺で。
眩暈?
「うわわ、地震地震!! 巣に避難、ゴボウも早く!!!」
「あ!!? うわっ…なんだこの揺れ!!?」
否――。
この建物が揺れている。
「いけない、もう時間だ!!」
そう叫んだのは玲の父親で。
「攻撃してくる!!!」
そう叫んだ時、何処かがバリンと壊れる音がした。
――まるで、硝子が壊れるかのように。
「玲央、システム遮断(シャットダウン)!!!」
「判った」
クマが駆けていく音。
「妾は非常事態モードに切り換え、皆の者に伝える!!」
「おう、夢路さん、頼む!!」
「おい、アホハット!!? お前ふらふらしてるんだから……」
何処までも煌の介助を拒絶して、二の足で立上がる緑皇。
それはどこまでも威厳に満ち、凄まじい気迫に満ちていた。
その決死の様子に、かける言葉が出なくなるほどに。