シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
今の雄黄に反感を覚えているのは緋狭さんだけではなく。
緋狭さんだけにその責めを負わせるのではなく。
俺は判ったんだ。
緋狭さんがこの世界に居ることで、心身の消耗を遅らすつもりであるのなら、緑皇はこの世界に入った時早々に、裏切るつもりだったんだろう。
緋狭さんのように直接的に刃物で肌を傷つけたわけではないのだとしたら、それはゆっくりゆっくり体を蝕んでいたはずで。
だからこその"時間切れ"ギリギリに、緑皇は俺達に話し、あとを託したんだと。
最初から思惑を語らなかったのは――
――人は、与えられたものに対しては、それがどんな深刻なものであろうと…現実味を帯びて考えぬ。
俺達が…いや、俺が"在り方"として弱すぎたんだ。
だからゲームで鍛え、自ら悟れる智慧と、裏世界の住人をも動かせる心を……鍛えようとしたのか。
それは。
五皇の心を奪った黄皇の如く――
真なるカリスマ性の鍛錬に他ならない。
己だけを強くしても仕方が無い。
強くなった仲間がいてこそ、力を増す。
己を鍛えよ。
そして――
仲間を鍛えよ。
それこそが、裏世界に遣わされた意味。
緑皇が内情を暴露した意味。
五皇が出来ない、魔方陣破壊を俺達に託されているからこそ、俺達は足りないものを五皇によって鍛えられている。
それが実力となりえたかどうかは疑問だけれど、少なくとも強くなる為の要素は、呈示されてきたはずなんだ。
それが重要か重要ではないか、その判断は、自ら悟れるかの能力にかかっている。
頭だけではなく、心で真剣に立ち向かえと言われている気がする。
心で相手を懐柔せよと。
その為に、相手と同じ土俵に立てと。
俺に――
五皇を心酔させた、黄皇の立場になれと言っているのか。
五皇並の強大な仲間を率いよと。
「はは……」
こんな時だというのに笑いが零れてくる。
過大評価も甚だしい。
俺が期待はずれだったらどうするんだ?
だけど。
――黙秘権や。
緑皇を始め、黙したままでいた五皇が、内情だけではなく心の内まで示したというのなら。
黄の印のリスクを覚悟してまで、俺達に託そうというのなら。
だから今まで、五皇の導きによって…"崖から突き落とされて"いたのだとしたら。
「そこまで言うのなら、やってやろうじゃないか」
俺は…敗者で終わるつもりはない。
それは五皇の意思に流されたのではなく、俺自身……自分の限界を試してみたい。
男として。
「『気高き獅子』よ……」
緑皇は、俺の決意を汲み取り、薄く笑った。
「では……見せてみろ。お前の力を」
「アホハット、喋るなって……」
「死にはしないさ。俺が死んだら…この世界の結界は奴らの思うツボだしな」
「奴らって何だ?」
煌の問いに、緑皇が口許を歪める。
「電脳世界」