シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
不明 桜Side
桜Side
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七瀬周涅――。
陽斗が眠る雑司ヶ谷の墓に至る直前、振り切ったはずの赤銅色の男が此の場に居るということは、たちはだかったBR001と凱は周涅にやられてしまったのか。
周涅は、あのふたり以上の強さを秘めているということなのか。
そして執拗に追う周涅は先回りして、あらかじめ玲様にとって禁忌というべき相手を使って私達を此の場におびきよせた。
しかし玲様を捕えるでもなく。
そして――
繰り広げられたのは…美咲が吐き出す蛆の海。
当主と玲様の父親の妹である旧姓…紫堂美咲の腹部に植え込まれた異質な"何か"。
そんな体にしたのは、紫堂当主だと周涅は匂わせるが、美咲は狂ったように否定する。
否定しなければならない怯えがあるのか、本当に違うのか…今の状況証拠だけでは判断つかないけれど。
私は煌を思い出した。
あの耐久性のない単純馬鹿がひとり苦しみ、体内の蛆と戦っていたあの時。
何で蛆があの馬鹿の体から出るのか(馬鹿すぎるから脳から蛆が湧くのか)、
何で蛆は煌の身体を食い破らなかったのか(馬鹿過ぎるから食う価値もないのか)、
どうして今はその蛆が消えたのか(あまりの馬鹿さ加減に蛆すら見放したのか)、
いまだ明確な理由は掴めていないけれど、その蛆は確かに攻撃性を持ち、横須賀港で櫂様の足を阻んでいたんだ。
そして再会した煌は蛆の名残を一切消す代わりに、人の首を刎ねるという黄色い外套男と成り果て。
何処から何処までも意表をつく奇想天外な奴は、私に幾許かの弱音を見せてはいたけれど、美咲のようにここまでの"恐怖"を心に抱えていたのだろうか。
煌は図体がでかく特殊な体を持つ男で、緋狭さんに鍛えられている身の上だけれど、そうしたことを…思い切り考慮しても、私が思っていた以上に、この状況は人として最悪で、煌は恐怖と孤独感に苛まれていたのではないかと思った。
少し。
ほんの少しだけ。
あの馬鹿に、よく克服したと言ってやりたい気がした。
心の中だけだけど。
ああ、今はそんなことより。
美咲が吐き出す蛆に、人を襲う危険性がない理由として、どうして早々に気づき得なかったのか。
「ねえ――久涅ちゃん?」
――…久涅。
「ああ、本当に」
櫂様と同じ顔をした、憎むべき男が近付いていたことに。
気配を悟られずにいるのは、無効の力というよりも…五皇特有のものだったのか。
それほどの力を秘めているのか。
五皇の…黒い外套を羽織って現われたこの男は。
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七瀬周涅――。
陽斗が眠る雑司ヶ谷の墓に至る直前、振り切ったはずの赤銅色の男が此の場に居るということは、たちはだかったBR001と凱は周涅にやられてしまったのか。
周涅は、あのふたり以上の強さを秘めているということなのか。
そして執拗に追う周涅は先回りして、あらかじめ玲様にとって禁忌というべき相手を使って私達を此の場におびきよせた。
しかし玲様を捕えるでもなく。
そして――
繰り広げられたのは…美咲が吐き出す蛆の海。
当主と玲様の父親の妹である旧姓…紫堂美咲の腹部に植え込まれた異質な"何か"。
そんな体にしたのは、紫堂当主だと周涅は匂わせるが、美咲は狂ったように否定する。
否定しなければならない怯えがあるのか、本当に違うのか…今の状況証拠だけでは判断つかないけれど。
私は煌を思い出した。
あの耐久性のない単純馬鹿がひとり苦しみ、体内の蛆と戦っていたあの時。
何で蛆があの馬鹿の体から出るのか(馬鹿すぎるから脳から蛆が湧くのか)、
何で蛆は煌の身体を食い破らなかったのか(馬鹿過ぎるから食う価値もないのか)、
どうして今はその蛆が消えたのか(あまりの馬鹿さ加減に蛆すら見放したのか)、
いまだ明確な理由は掴めていないけれど、その蛆は確かに攻撃性を持ち、横須賀港で櫂様の足を阻んでいたんだ。
そして再会した煌は蛆の名残を一切消す代わりに、人の首を刎ねるという黄色い外套男と成り果て。
何処から何処までも意表をつく奇想天外な奴は、私に幾許かの弱音を見せてはいたけれど、美咲のようにここまでの"恐怖"を心に抱えていたのだろうか。
煌は図体がでかく特殊な体を持つ男で、緋狭さんに鍛えられている身の上だけれど、そうしたことを…思い切り考慮しても、私が思っていた以上に、この状況は人として最悪で、煌は恐怖と孤独感に苛まれていたのではないかと思った。
少し。
ほんの少しだけ。
あの馬鹿に、よく克服したと言ってやりたい気がした。
心の中だけだけど。
ああ、今はそんなことより。
美咲が吐き出す蛆に、人を襲う危険性がない理由として、どうして早々に気づき得なかったのか。
「ねえ――久涅ちゃん?」
――…久涅。
「ああ、本当に」
櫂様と同じ顔をした、憎むべき男が近付いていたことに。
気配を悟られずにいるのは、無効の力というよりも…五皇特有のものだったのか。
それほどの力を秘めているのか。
五皇の…黒い外套を羽織って現われたこの男は。