シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「とにかく君は、五皇の試練として魔穴に堕ちねば、ぽっくりと早死にしていた身の上だからねえ。黒皇の素質があって、体が"目覚めて"くれて良かったねえ?」
「………。五皇がなんで皇城と関係がある?」
玲様が険しい目つきをされていた。
「しかも久涅は紫堂の人間だろう」
久涅はそれを真っ向からうけ、そして目をそらす。
その先にいるのは芹霞さんだが、芹霞さんは玲様だけを見ていて、微かな舌打ちが聞こえた。
ふと疑問に思う。
始めの頃の久涅は、こうした我慢が出来なかった男だ。
すぐに自らの残虐性を示して、力で屈服させようとした。
それが何で…芹霞さんの目ひとつでこんなに乱れる?
何かが――変わった気がする。
櫂様を、殺そうとしていた癖に。
櫂様がいなくなれば、途端にこんなにやるせない表情をするのか。
櫂様は生きている。
そうはっきり口にしたら、この男はどうするだろう。
櫂様が生きていることは、過去誰も口にしていない。
この男達はそれを判っているのだろうか。
何でも知っている情報屋の緑皇が、櫂様と裏世界にいるのなら。
皇城に、周涅に…すぐ連絡がいき、そして久涅も紫堂当主も、情報が流れているのではないか。
緑皇が私達の味方とは思えない。
例え事前に緋狭様と示し合わせていたとはいえ、私の目の前で、周涅の目の前で…緋狭様の背中に刃をたてたのだから。
しかもあの時、周涅と皇城家現当主の息がかかっていたはずだ。
――緑皇は変わり身が早いからね。さすがは"変化"の緑皇だよね。
正しい情報は、今どんな経路(ルート)を辿り、何処まで進んでいる?
「だけど久涅ちゃん、緑皇ごと"約束の地(カナン)"を沈めちゃったでしょう。魔方陣爆破させて」
「………」
「用無し?」
黙する久涅。
この会話のやりとりに、どこまで信憑性があるのだろうか。
この話題に少しでもまともに反応したら、真実が私達から伝わることになってしまう。
向こうが知らないフリをするのなら、こちらはそれに乗るのが自然。
「許さない。櫂様に…!!!」
ならば乗ってやろう。
今の真情を言葉に乗せて。
事実さえ隠し通せば、私の心が真実となるから。
「お前は櫂様になにをした!!!」
怒鳴って。
どこまでも衝動的に。
思い出せ、あの馬鹿蜜柑がよくやる動きを。
単純で短絡的な"怒り"を心に宿せ。
「櫂様を返せ!!!」
ああ、なんと自然に体が動くんだ。
心に感情というものが宿れば、肉体は思った以上に動いてくれる。
しかし――、
「桜!!!!」
久涅の胸元を掴んだ時、久涅が動くよりも早く、玲様が私の腕をひいて近くに引き寄せると、私の頬を思い切り叩いたんだ。