シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「黙れ、桜!!!」
玲様らしからぬ、怒声とその言葉に驚いた私。
「櫂は…絶対生きている!!! 死んでいるはず…ないじゃないか!!」
その目からは涙。
え、涙?
私の意図が通じない…わけでもなさそうだし、真実の語り口としても、違和感がある物言い。
そして驚く私の頬に、また平手が飛んで来た。
痛い。
玲様は本気で私をぶった。
驚いた私の目がさらに大きくなり、暫し瞬きすら忘れた状態で眼球は乾ききって痛みを感じるほどで、さらに頬までがじんじん痛くなってくる。
これは怪我が酷くて…ではなく、驚きすぎて体が必要以上に過剰反応しすぎているためだ。
痛む頬に…熱いものが流れて。
乾いた眼球が充血しすぎて血でも流れてきたのかと、慌てて目を指で拭えば、指の腹についたのは…真紅色ではなく透明な雫。
え、私も涙?
そして…気がつくと、視界が塞がれて。
「葉山…泣くなよ?」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、遠坂由香が私の目を拭いていた。
私…涙が零れたのか?
悲しいという感情からではない。
玲様に突然叩かれて悲しくないわけではないが、少なくとも心が震えるようななにかの感情に起因するのではなく、これはただ…純粋に驚いただけの生理的反応で。
「桜ちゃん、皆…久遠とか仲いい人達の無事を願ってるの。不吉なことは言葉にしないで。言霊の力を頂戴よ」
そう、やはりぐすぐすと鼻を鳴らしながら、私の目を拭う芹霞さん。
………。
判った。
判りました。
話をより真実に近づけさせる為には、反論するメンバーがいたらいいらしい。
演技お上手な玲様は、より私の感情の昂ぶりを演じさせようと、平手で私の涙を誘ったのだ。
それを見て、"泣かなければならない"と悟った女ふたりは、わざとらしく鼻を鳴らすだけで(クオンの鼻をすすっていた音を真似したらしい)、周涅や久涅から背を向けたのは…ひとえに自らの演技に自信がなかっただけのことで。
もう目が、完全に泳いでいる。
そう、彼女達は、自他共に認める見事な"大根"だった。