シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
電光石火の寸劇の終幕において、芹霞さんが拾い上げた化けネコは、体の衝撃に少し伸びているようだが、頭を直接殴られた遠坂由香の回復は早く。
あの馬鹿げたイヌとは違う完全素人なのに、かなり頑丈な頭部の作りをしている事実が公然となった。
彼女が憧れているらしい"邪気眼"とはまた別のものだが、十分に常人離れしている異質さを、今度告げて上げようと思う。
玲様は優しく彼女の側頭部を手で撫でているが、それが白々しく思えないのは、玲様の真剣な……悲哀と慈愛に満ちた表情とそれに見合う儚げなげながらも美しい女装のせいだろう。
さすがの周涅と久涅も出る言葉はないようで、素人女と化けネコとの派手な衝突劇の行く末を、なんとも複雑そうに見ているだけで。
どうしても悪いのは、化けネコのように思えるから不思議だ。
開きでひくひくしているネコが気の毒に思えたのか、芹霞さんは手に抱いた白い頭をひと撫でして、無性に哀れんだ目を向けたが、玲様の咳払いに気づいて、この悪いネコめとヒゲを引っ張った。
やはりこの舞台、玲様が主役でその他は脇役だ。
「さて」
そう言葉を発したのは、玲様だった。
櫂様の安否の問題から遠ざかるためと、話を進めさせるために。
「なんで此の場に僕達が揃っているのか、説明して貰おう。
ただ世間話をしていたいわけではないだろう。ましてや僕の従兄殿は、黄色い蝶の鱗粉をつけて、誉れ高い黒皇の外套でのご登場。
偶然な不幸だと思える程、僕は馬鹿じゃない」
そう言いながら、僅か数秒私に視線が向いたのは――。
いつでも、此処から逃げ出せる体勢を確保しておけという指示。
相手の隙をみつけろということ。
周涅の肩には美咲が担がれている。
いつものような、フルな動きは出来ないはずだ。
しかし本気になれば、美咲を殺してでも自らの動きを優先させるだけの非道さは持ち合わせている。
美咲は周涅の行動を阻む者にはありえない、か。
久涅は……弱点は芹霞さんだろう。
この何かいいたげなのに口を噤んでいる…その心の揺れの時間に動けば、振り切ることが出来るかもしれない。
「馬鹿じゃないなら判るよね?」
周涅が玲様に笑った。
「皇城は、君が必要なのさ」
「お前が北斗の巫女だとかいう紫茉ちゃんを、僕が抱いて子を成すことを強要するのは……お前自身の意思か?」
すっと……赤銅色の瞳が細められた。
僅かだけれど、それは動揺のようにも見えた。