シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「俺達の動きを見る限りにおいては、常識的な物理的法則は生きているみたいだ。"約束の地(カナン)"の地のような、重力に逆らうような、強制力は働いていないように思える。
だとすれば――
俺達は重力に従い、地上にある喫茶店から、地下にあるこの場所に落ちてきた。下から上に上がったわけではないんだろう」
そう、思った。
「だったら!! 何で下に穴開いてるよ!!」
「実際の動きは、俺も寝ていて判らないけれど、回った…んじゃないか、この部屋が。俺達が…裏側の"上"に居たのは、情報屋が…壁と床に押し潰されないように"移動"したのだと…思うんだが」
そうとしか床が裏返しになる理由が判らないんだ。
「回る!!!?」
驚いた声を発する煌と翠の横で、情報屋は薄く笑っていた。
否定とも肯定とも言いがたい、嘲笑を浮かべたような顔。
それは…どことなく氷皇や榊の表情にも似ている。
全正解では…ないのかもしれない、そんな予感もする。
ただ外れてはいないはずだ。
補足すべき事が…まだあるのか。
それとも――
そう思わせることがトリックなのか?
………。
試されながら…誘導されているのか?
何に?
俺が目を細めた時、情報屋が口を開く。
「……。ウチが、自分で丸い床ひっくり返した可能性及び、裏返ったのが"幻"言う可能性は?」
俺の視覚を否定にかかっても、"リバーシブル"に意味があるということは、否定していない。
ならば――
「この…下に拡がる穴を信じて、仮に俺達が下から上に来たとして。お前が丸い床をひっくり返すことが"リバーシブル"の意味ではないだろう。
表世界から持ち込んだお前の小道具が幻ではないのなら…表世界の床だって意味は同じ。
というか、そんな床自体…幻であろうが本物であろうが、大して重要性はない」
――坊、看破せよ。
「重要なのは床ではなく…それが隠していた穴の方だ。
穴を作ってこの場の内部に入った丸い床が、その穴を隠せたという状況自体、不自然極まりない。
だとすれば…」
情報屋の笑い方が、愉快そうなものへと変わる。
「だとすれば。
その穴こそが脱出の鍵――」
「うわ、何だあれ!!!」
その時、翠が裏返った声で叫んだんだ。