シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

原点 桜Side

 桜Side
************************



「原点に戻って…

考える必要があると思うんだ」



そう、玲様は言われた。



「ということは――…」


芹霞さんが真摯な面持ちで、鳶色の瞳を見つめて。


「あたしの首から胸にかけての沢山の赤い斑点、いつ何処で何でついたか、よくよく考えろってことだね?

うん、判った。必死に思い出してみるよ。ええと…」


何処までも真剣な芹霞さんの言葉に、玲様は顔を赤く染められて。


「違うよ、芹霞!!! その話じゃないんだって!!! もう引っ張らなくてもいいから!! お願いだから、その話は終わりにしよう?」


もう何度目になるだろう、この会話。


「ふええええん。玲くんに見離された!! やっぱりあたし、手当ても無駄な末期症状で、すぐ死んじゃうんだ!!!」


やはりまた芹霞さんが泣いてしまい、玲様は、またおろおろ。


――大丈夫、心配しなくてもいいものだよ?


いつもてきぱき処理をする玲様から、何も手当てがなかったということが、芹霞さんの不安を煽っているようで、玲様は優しいから手遅れだということを黙っているのだと…逆に思ってしまったらしい。


芹霞さんは余程…"約束の地(カナン)"において、ゲームに充血した目を病的に感じていたらしいが、ならば何故芹霞さんだけが"斑点"がつくのか、彼女にはその疑問は湧いてこないらしい。


「死なないから!!! というか、僕が死なせないから!!!」

「うわあああん!!! きっと最期は腐りまくって醜く死んじゃうんだああ!!」

「腐らない、腐らない!! むしろ"ぴっかぴかのつっやつや"になって、今まで以上に綺麗になるから!!」


玲様は…必死に(一方的に)宥(なだ)めているのだが、何で"ぴっかぴかのつっやつや"になるのか、そしてあの斑点がどうして"綺麗要素"になるのか私にはよく判らない。


「ぐすっ。あたしは、現代医学で究明できないような難病奇病にかかって…」

「君は変な病気じゃないから!! 時間がくれば元通りに…」


平行線の会話の中、狼狽(うろた)える端麗な顔は赤さを増すばかりだったが、玲様はひくっと片眉を動かされると、静かに言葉を切られた。


そして――


「元通りも…何か嫌だな…」


伏せ目がちにそう小さく呟かれたのを、私は聞き逃さなかった。

< 114 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop