シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

記憶

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――夢を見させてくれてありがとう。



それは、どう考えても別れの言葉だと思う。


どうして突然そんなことを玲くんが言ったのか、あまりにも不可解すぎてあたしの頭はショート寸前になった。


いつも逃げ回っていた頭痛と心臓痛の先には、あたしが大好きな幼馴染と、築き上げてきた12年の想い出があった。

感動と充足感と…いままで思い出せずに櫂に酷いことを言ってしまった…そんな後悔と罪悪感と。


様々な心情をパレットに置いた絵の具に例えるのなら、全てが入り混ざったその心の色は、限りなく汚い黒に近いものだったろう。

ただまだ頭がぼんやりとしていて、その記憶が全て正しく蘇生されているかは現段階よく判らなかったけれど、とにかく奥歯に詰まってじれったかったものが、ようやくとれた…そんな爽快感は感じていたから、この得も言えぬ感動をまず玲くんに伝えようとしたんだ。


玲くんはずっとずっとあたしの傍で、櫂はあたしの幼馴染だと言い続けていたから。

否定し続けていたのは、あたし。


写真にある"思い出"を取り戻し、夢の中のことも過去として思い出し……、結局全ては玲くんの言う通りで、自分の記憶力のなさと薄情さに吐き気がしてきたけれど、優しい玲くんはきっといっしょになって、櫂の記憶を取り戻したことを喜んでくれるだろう。

そう思ったのに――。



――夢を見させてくれてありがとう。


なぜですか?

なんで、"めでたい"話が、玲くんとのさよなら話になっちゃうんですか?


あたし達、櫂の記憶が戻るまでの付き合いだったの?

最初からそんなつもりだったの?



だから櫂の記憶を取り戻せと、言い続けていたの?

御役ご免で…早く解放されたかったの?


その言い訳が、あたしの…櫂への恋愛感情説?

あたしが先に玲くんを裏切っていたと、あたしのために別れたいのだと……そう話を進めたいの?


それがあたしが傷つかない方法だと?



猜疑心と哀しみが渦巻き、玲くんの心がよく見えなくなってしまった。



玲くんは――

いつもそんなことを考えていたんだろうか。


あたしみたいに、少しでも長く一緒にいたいなとかは思ってくれてなかったのだろうか。


玲くんに愛されているとちょっぴりとでも思い始めてきたのは、玲くんの卓越した演技ゆえに騙された"自惚れ"だったんだろうか。


あたしだけだよ、信じてね、と言ってくれてたのは…恋愛初心者のあたしを安心させるための優しい嘘?

初心者だから信じたの、あたし?
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