シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そしてまた問題が起こる。
「あれ、ここの壁……葉山が壊したやつじゃないか!!」
戻ってきてしまうんだ。
一本道の廊下をただひたすら歩いているだけなのに、振り出しに戻る。
「別の分岐はなかった。ありえないな、この構造は。これでは入り口すらないということになる」
右側は窓もないコンクリート壁。
左は不規則に並ぶ、木製のドア。
「瘴気は感じませんし、幻影ではない気がしますが…。玲様、桜がちょっと見てきますので、お待ち下さい」
桜ちゃんはコンクリートをコンコンとノックしながら軽やかに走り、あっという間に戻ってくる。
「音は変わりません。抜け道があるわけではなさそうです」
「だったら、左のドアに道が?」
あたしの問いに、桜ちゃんが慎重に近くのドアを開けた。
そこはがらんとしている正方形の空き部屋。
奥に入口と同じドアがある。
また桜ちゃんが先頭に立ち、そのドアを開けば更にすぐドアがあり、それを開けばまた空き部屋。
その奥にひとつだけあるドアをまた開けば…見慣れた廊下。
これは別舞台(ステージ)の廊下なのかという期待虚しく、廊下を検分していた桜ちゃんが言ったんだ。
「実は…先ほど、裂岩糸を廊下に置いて目印にしてきたのですが、ありますね、糸。ということは、ドアの向こう側も結局は、出口のない同じ1つの廊下かと」
つまりは――?
由香ちゃんが腕組みをして言った。
「この建物はリングドーナツ状だと思うんだよね。左にドアがあるということは、ドーナツで言えば穴のある中心部分に部屋があるということ。部屋同士が繋がっていたとしても、廊下に出れば、結局はまたぐるぐる回ることは変わらないんじゃ?」
「じゃあどうやって出るの?」
あたしの問いに、返る言葉はなかった。
「師匠、パソコンでサーバー内部に入って見取り図探し出すかい? ハッキングが可能なら、だけど」
由香ちゃんがへたんと床に座り込んで、銀の袋から再びパソコンを取り出そうとしたとき、なにかがひらりとあたし達の目の前に落ちた。
「「「「………」」」」
全員がそれを見つめる。
タイミングよく現れたそれ。
忌々しい色に覆われたそれ。
なんであるかわからないそれ。
「由香ちゃん……」
鳶色の瞳は少々潤みながら、由香ちゃんに向けられる。
「持ってきちゃったの、あの塾から」
「あ……一応、持ってきちゃってたりして…忘れてたけど、あははははは~」
忌まわしいその笑い方が、空しく消えていく。
青い紙。
胡散臭すぎるお手紙。
桜ちゃんが四つ折のそれを拾って、いつも通りに書かれた宛先を見た。
『レイクンへ☆』
ひっくり返して見た。
『ご担当のレイクンお元に。
順序狂わせたら3倍ほっぺだお☆
d(ゝ∀・)<コレハval.2ナノダ』
………。
どうしても玲くんに見て欲しいらしい。
本人公認の、青い紙担当係の玲くんに。