シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「師匠…。ボクね、パソコン接続するより、こっちやった方がいい気がするんだよね…。val.3がいつ来るかわからないし、3倍ほっぺが……いやそれより、予感?」
眉間を押さえながら言った由香ちゃんに、あたしはこくんと唾を飲み込んで、静かに聞く。
「由香ちゃん、邪眼だね? 邪眼がお目覚めなんだね?」
「そうさ神崎。目覚めたばかりのボクの邪眼が告げているんだ」
「だったら玲くん、やらなくちゃ」
自然に、いつもどおりに言葉が出てくる。
なんとも形容しがたい困ったような顔を玲くんはしていたけれど、要はあたしが普通に戻れればいい。
言葉を詰まらせたら、レイクンの機嫌も悪くなるし。
蒼生ちゃん、ナイス。
今だけは褒めてあげるよ。
「玲様……」
申し訳なさそうな顔をして、頭を下げ気味に桜ちゃんが口を開いた。
「こんな時にと思うのですが、なぜか桜も由香さんと同感なのです…」
由香ちゃんの邪眼効果を桜ちゃんも後押しすれば、目を輝かす由香ちゃんとは対照的に玲くんはげっそりとした顔つきになって言った。
「………。不思議と、僕も同感なんだよね…」
なんと玲くんもらしい。
「ニャア」
……化けネコ様も同意しているように思えた。
あたし以外は、皆やらねばいけないという強迫観念じみた予感があるらしい。
「むふふふふふ」
ふたり+1匹の保証を得られて、救世主由香ちゃんは大喜び。
ハンカチを取り出して、丁寧に眉間を拭いて、更なる磨きをかけている。
出られない建物。
そんな時に落とされた胡散臭い手紙。
ふたつの間に、因果関係はない。
手紙が落ちたのは完全に偶然で。
手紙を手に入れたタイミングすら違うけれど、邪念とでも言うべき見逃せない強制力がある。
きっと呪い……いや、天啓というのはこういう類なんだろう、偶然が必然に思えた時、それはその人にとって必然になってしまうんだ。
――あはははは~。
予感は必然となる。
「まあ、関係なさそうならしまえばいいし」
玲くんは大きなため息をついて、覚悟を決めたようだ。
「本当は破り捨てたいけど。今のタイミングで3倍ほっぺされたら、僕強く出れないし」
ぼそっとなにかを言ったのは聞こえなかった。
手紙を開くにあたって、あたしは下ろされると思っていたのだけれど、玲くんは依然あたしを抱っこしたままで、桜ちゃんが代理で手紙を開けた。
「関係なさそうなら、やめますから。玲様落ち着いて」
そして2つ折り状態の紙を1行だけ見えるようにずらした。
『あっちもこっちも手詰まりレイクン元気~?』
レイクンの顔が険しく歪む。
「………。桜、全部見せろ。逆に腹立たしくなる」
「す、すみません。では」
青い手紙の全貌がさらされる。