シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「これは穴埋め問題かな?」
「え、神崎……どこになにを埋め込むんだい?」
「なんでしょう、この記号……」
「矢印も一定してないし……」
芹霞がクオンに聞いた。
「化けネコ様はわかる?」
「zzzzz……」
ネコ寝入りを始めているようだ。
「ドーナツに関係しているのは間違いなさそうだけど、どこがドーナツに結びつくんだろう。記号の◎?」
「そういえば、全8行に全てありますね……」
「あったところで、なにがなにやら……。トホホだよ」
「1行の文字数は似ていますが一定してませんね」
「記号の数もそうだな……」
「記号で白いのと黒いのは意味あるのかな…?」
いつもはヒントがあったけれど、今は情報が少なすぎて、どう見ればいいのか判らない。
ああ、別にここ最近の、氷皇のあの腹立たしい僕の……隠したい過去の揶揄を期待していたわけではないけれど、なければないなりに腹立たしく思えてしまうのはなぜなんだろう。
――あははははは~。
僕の屈辱の初体験。
そこに明記されていた美咲さんは、死んでしまった。
思い出したくない恥ずべき過去であり、今の苦境に至る起因だとはいえ、流され続けた僕に落ち度が全くなかったとはいえないだろう。
だからこそ恨みはするけれども、殺したいほどの憎しみがあったわけではなく、むしろ芹霞に妬いて貰えた喜びに、過去は別次元の事象として認識始めた矢先のことだった。
芹霞の……櫂の記憶の蘇生。
蛆に蝕まれた美咲さんの死。
周涅の術が解けた現実はかなりシビアで。
だけどそれを今考えている余裕がないのがもどかしくて。
僕はまた脱線しそうになる思考を振り切るために、頭を横に振り、暗号解きに没頭する。
由香ちゃんの銀の袋にはペンと紙が入っていたらしい。
そこに桜が色々数を数えて書き込んでいくが、共通項はない。
縦に読もうとも反対に読もうとも、まるで意味をなさない。
「短い1枚目に、ヒントが隠されてないのかなあ」
芹霞が僕の膝の上で、1枚目を手に取った。
『あっちもこっちも手詰まり玲くん元気~?
蒼生ちゃんから、お待ちかねVal.2をお届けします。
ふふふ、レイクンの笑顔が頭に浮かびます。
胡桃カリカリしてるリスみたいで可愛いなあ☆
ドーナツに悩んでもこれでばっちり。
考えるより歌って動け。←では☆
小リス大好き蒼生ちゃんより』
「この中で、強調されているのは……師匠がリスだということ」
「僕はリスじゃないってば!!」
「この……"考えるより歌って動け。←では☆"が、ひっかかります。なにをどう歌い、動けばいいのでしょうか。歌ってなんでしょう? それが2枚目?」
そして桜が2枚目を見せるが、歌のヒントはおろか、なにをどう動くのかわからない。