シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ああ本当に、蒼生ちゃんは手詰まりな状況がきてるって、わかっているんだよね…。このドーナツの前で」
それだけを意味しているわけじゃない。
原因主は気づいていないみたいだけれど。
ああ、なんで見越されるんだ、僕は。
さっきまではうまくいってたじゃないか。
急転直下。
ころころころ……。
まてもや頭の中に胡桃が転がってきて、横から笑顔の小リスがふさふさな尻尾を揺らして飛びつく幻影が浮かんだ。
ぶんぶんぶん。
僕は再び頭を横に振る。
「どうしたんだい師匠。さっきから……」
「なんだか小リスの幻影が……」
「歌……。まさかリスの歌とか…でしょうか?」
「リスねえ……リスの歌を歌えって? そんな歌なんて……」
呟いた芹霞が薄く笑った後、真剣な顔をして考え込んだ。
「リスの歌、ひとつあるわ。童謡『りすりす小リス』っていうの。昔よく櫂と歌った童謡よ」
そして芹霞は鼻歌で、口ずさみ始める。
その規則正しい律動と、明るい旋律に乗って、小リスが二本足で両手を大きく振りながら、笑顔で凱旋してくる幻影が思い浮かんで、また僕は頭を振る。
「これが蒼生ちゃんの言う歌かどうかもわからないし、歌ったところでなにが変わるのやら。……だけどあら嫌だ、頭から離れなくなっちゃった。"りすりす小リス、ちょろちょろ小リス……"」
今度は歌詞つきで、芹霞の歌は止まらない。
――あはははは~。
芹霞の歌なら、リスでも嫌味には聞こえないけれど、これがあの青い男が歌えば、腸煮えくり立つように思えるんだろう。
「りすりす小リス……」
やばい。
僕だけではなく、皆もリスの歌に汚染されてきたらしい。
「なんだか不思議とボク、茶色い小リスが二本足でさ……」
「ええ、大きな尻尾を左右に揺らして……」
「笑顔でこっちに歩いて来る気がするんだよね……」
皆の持つイメージは、不思議にも僕と同じらしい。
なんだろう、この共通意識。
まるで皆で白昼夢でも見たようで。
「りすりす小リス……」
無意識に口ずさみながら2枚目の紙を見ていた僕は、そこではたと気づいたんだ。
「!!!!」
脳天に天啓の雷が落ちてきたような、まるでそんな衝撃だったんだ。
「もしかして!?」
2枚目の青い紙を奪い取るようにして、急いで目を走らせる。
「それだ!!」
間違いない!!