シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
しかし相手は、あの櫂様すら長年手こずっていた芹霞さんで――。
「玲くん…本当に治る…?」
「治るよ」
にっこり。
「じゃあ…頂戴?」
芹霞さんが、玲様の真向かいの至近距離で正座し直し、"おねだり"をして首を傾げた。
「玲くん、愛情たっぷりたっぷり頂戴?」
「………っ」
更には、芹霞さんの…必死故の"うるうる"の上目遣い。
その無意識のカウンター的な威力は、玲様の基本防衛力を凌駕したらしく、玲様は目を見開いた状態で固まったまま、顔が更に赤く赤く染まり行く。
芹霞さんをいつも翻弄しているはずの玲様は、意外に不意打ちに弱いらしい。
更に芹霞さんの追撃。
「ねえ…頂戴?」
両手で水を掬うような形で、"頂戴"アピール。
何で愛情が、その手で受け止められると思うのか判らないけれど。
「玲くんの愛情…欲しいの」
あの玲様が困っている。
「玲くんの愛情で…あたしを治して?」
あの玲様が苦悶している。
「あたしの身体には、玲くんの愛が必要なの」
「………っ」
そして玲様は、私をちらりと見た。
え?
もしかして私、お邪魔なのか?
そう席を外そうとした時、玲様の手が伸びて私の服を掴んだ。
「桜、すぐ終わるから」
そんな声がした途端、
「お前には刺激が…強すぎるからね?」
私の目が玲様の手で塞がれて。
「芹霞……ね、……。ふふ……だね? ………ねえ……」
玲様の声が囁くような声音に変わったと思った途端、
「ん……」
どちらからかの甘い声が漏れ、水音が響く。
「まだ…十分じゃないね…?」
な、何が起きているんだろう。
「もっと…深い、
清く正しくないコト…しようか」
何で暗い視界が桃色に見えるのだろう。
「……ん? うわわ!!? 芹霞、鼻血、鼻血!!!」
突如拓けた視界の中は、血の惨劇だった。