シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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芹霞さんの鼻には、ティッシュがゆらゆら揺れている。


しかしその顔は、先程までの不安一杯なものでも、失血にぐったりするものではなく、いつものように活き活きとして、ひとまず不安は一旦終結したようだ。

お肌なんて、"ぴっかぴかのつっやつや"で。


………。


玲様の言われていた通りだ。

私の視界が塞がっていた間に、何が起きていたのだろう?

本当に"彼氏サン"の愛情を貰わないといけない病気だったとか?

それにしても、もう十分すぎる気が…。


私には、男女の恋愛関係がどうあるのが普通か、よく判らない。

判らないが芹霞さんは頗(すこぶ)る色艶良く、それを見た玲様も実に満足そうであるならば、どんなことが繰り広げられていたにしても、これもまた1つの形なんだろうと思うことにした。


恋愛は私には難しくて、考えたくない。

そう、深く考えたくないのが真情。


ドウシテ?



――紫堂当主が…出かけた?

――久涅も別件で、この家から出たと?


私が"彼女"と連絡をつけに屋敷を歩いていた時、青ざめた顔で頭を抱える執事長と副団長が話している現場に立ち会い、彼らは口を揃ってそう言った。


別に虚言の必要性もなく、さして私の問いの返答に深刻さはみられなかったのは、私が居ない処でなされていた2人の会話の方が、余程深刻だったからに違いない。


執事長の青ざめ方は…恐らく、玲様絡みではないかと予想する。

それにたかだか副団長が、どんな関わり合いをしているのか判らないし、興味はないけれど…少し困惑気味な表情から見て、執事長に身の上相談されているような雰囲気があった。

副団長は私に何か言いたげな素振りを見せたが、私はいつもの通り用が済むと背を向けて玲様達の元に戻ったのだ。


そして当主と久涅不在の旨を玲様に話すと、玲様はご自分の件を後回しにされ、別の案件を口に出された。


――2人が居ないのなら、2人が居ては不味い話をしよう。



「仕切り直しで――


原点に戻って…

考える必要があると思うんだ」



再びそう、玲様は言われた。


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