シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「まさか、この薬が……」
紫茉ちゃんは項垂れてしまった。
そんな彼女の肩をぽんぽんと芹霞が叩く。
「元気出して、紫茉ちゃん。犠牲になった人には悪いけれど、その薬のおかげで紫茉ちゃん元気であたし達、知り合うことが出来たんだし……」
「そうだよ、七瀬。七瀬が気に止むことはない。神崎お得意のポジティプシンキングで行こうよ。癒しが必要なら、化けネコ様の頭を撫でるといいよ。化けネコ様は、今歌もお歌いになるから」
そして促されるように桜の背負ったカバンを見た紫茉ちゃんは、そのまま動きが固まってしまった。
「こ、これは……あのふさふさネコか? え、バラバラになったから、カバンにくっつけて飾っているのか?」
「フーッッ!!」
「え、生きてるのか? え、え?」
そんな女性陣の横で、僕は目を細めた。
「どうしました、玲様」
「ん、今……あの自警団が頭に被っている機械から、電気の流れを逆走査していたんだ。あの効果はよく判らないけれど、更正に中核を担うのなら、それだけのものを管理できる機械は……」
「自警団のサーバーですか?」
僕は頷いた。
「恐らくね。ん……多分あっちの方だな」
「行きましょうか」
「そうだね、僕は元からサーバーに用がある。上手くいけば、色々な情報がとれると思う」
ただ危惧するのは――
そこに周涅や久涅がいること。
彼らが今のこの状況を、気づいていないはずがない。
脱出帰路上に待機しているか、僕が必ずそこに行き着くと見越して、サーバー室にいるか。
或いは別の思惑があって、違う場所に待機しているか。
ならばどれを選ぼうと、結果は同じ。
意味があるところにふたりが居るのなら、僕はそれを見過ごして帰ることはできない。
「あ、そうだ、朱貴!!」
そう、朱貴もまだこの施設にいるのなら。
「紅皇サンの部屋はどこか、紫茉ちゃんわかる?」
「ここもどこかよくわから……」
「朱貴の気は、微細ながら私も感じます。動いているようです。恐らく…紫茉さんを探しているのだと」
朱貴の気……。
確かに仄かに感じる。
「好都合だ。サーバーがあると思われる場所の近くに居る」
そして――。
僕と桜は顔を合わせて頷いた。
「周涅の気も今、同じような場所に現われた」
「ふたりの気が大きくなったのは……交戦しているかと」
「周涅と朱貴は戦っているのか? 喧嘩?」
紫茉ちゃんの発想に、僕は苦笑する。
「きっと朱貴が、周涅に噛み付いているんだろうね。紫茉ちゃんをどこにやったと。それが一番、可能性が高い」
目覚めて紫茉ちゃんがいないことに、焦って動揺して。
そうでなければ、朱貴は周涅には服従する。
心はどうであれ。
逆に言えば、紫茉ちゃん以外のことで朱貴は逆上しない。
朱貴にとっても周涅にとっても、重要な意味を持つらしい紫茉ちゃんは今、僕達の手の中にある。
これは僕達にとっては渡りに舟。
真の意味での"出口"となりえると、僕は薄く笑った。