シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「"約束の地(カナン)"で見た氷皇のメッセージが、どうしても僕は気になる」
そう真摯に語り始めた玲様にとっては、そうした問題よりも、紫堂当主の持ちかけた玲様自身の問題の方が、直ぐ祓わねばならぬ災厄のように思える。
――僕は紫茉ちゃんを抱かない。
玲様の意思など通用しない紫堂の中、更には長たる当主の厳命であることを、玲様は弾けるんだろうか。
いくら玲様が固く決意していたとしても、不安は大きいはずで。
それでも櫂様が戻られた時に、櫂様と共に走れる存在になることを渇望している玲様にとって、色恋に現(うつつ)になって何の策も打っていない腑抜け者と失望されることだけは避けたいのかもしれない。
櫂様は間違ってもそう思われる方ではないけれど、自己嫌悪になりながらも芹霞さんを手元から離せない玲様には、櫂様からの蔑視が死ぬほど辛いはずで。
名誉挽回して共に走りたいという気持ちが、今の玲様を前向きにさせている気がする。
そして芹霞さんの存在が、活力となっている気がする。
その活力がある限り、紫堂当主の厳命は…玲様の抵抗力となるだろう。
多分…櫂様はそう考えられ、芹霞さんを玲様に託されたと思うんだ。
櫂様も辛いはずだけれど、それでもご自分のことより相手のことを思うのは、ある意味玲様と同じ。
従兄弟とは思えない程の…濃い血の繋がり。
………。
玲様と櫂様と久涅。
その関係はまだ、明らかにはなっていない。
「"約束の地(カナン)"に金が眠っていることや錬金術。レグは、その力を持って"約束の地(カナン)"の存在の重要性を、藤姫を含めた元老院に示した。まあ意図する処は別にあったにせよ」
私と芹霞さんは頷いた。
「ただしその"金"の意味は、栄華の象徴ではなく…脅威の象徴だったと考えたら、また別の意味が見えてくる」
玲様は淡々と言われる。
「"約束の地(カナン)"は…限定的な楽園だったと言うこと。つまり優位性があったのは、レグではなく藤姫側にあって…レグを使って"何か"を試みていたということ」
「天使の飼育場じゃなく?」
芹霞さんの質問に、玲様は頷いた。