シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

「なにが日照権に和解だ!!　お前……、俺の頭だっていうこと忘れてねえだろうな」

「むむむっ。リスにだって、居心地いい巣に住む権利があるんだ!!　生きるためには、最低限の当然の権利じゃないか!!」

「小難しい単語並べやがって……。どこでそんな知識仕入れたよ。で、ところで櫂。日照権ってなんだ?」

俺は笑いながら説明してやるが、煌はなんとも悩ましい顔つきのまま固まって、


「俺の頭……リス以下?」

「当然さ!!　お前はイヌだからね!!　そんなことより、猿、猿!!　胡桃だからね、胡桃あとで頼むよ!!　……よし、胡桃ゲット!!」


翠から返事がないのは、きっと集中モードに入っているのだろう。白目を剥いている。それを肯定の返答だと受取ったらしいレイは、ほくほくとした顔で嬉しそうだ。


そして煌の頭上にはレイと翠、そして俺と睦月は、先頭の護法童子について"九星の陣"を駆けた。


護法童子の説明によると、


「九星とは一白·二黒·三碧·四緑·五黄·六白·七赤·八白·九紫のこと。それは3×3の後天定位盤というものが起源」

「後天定位盤?」

煌の質問に俺が答える。


「3×3の9マス、縦·横·斜めのいずれの列についても3つの数字の和が等しくなる、魔方陣と呼ばれるものだ」

つまり、九星は魔方陣に対応可能らしい。

だとすれば3×3の魔方陣は、ひとつしかありえない。


四 九 二
三 五 七
八 一 六


列の和は、足して15となるしか。

ただ四隅にどの数字が来るのかは不明なため、ひとつのパターンとして、「四緑」が左上にくるのをしたが、それがアタリだったようだ。


「――という左上からの並びで、一から九まで進んでいけばいいんだな?」

「然り。だが櫂殿、同じ道は二度踏んではいけぬ。しかも一度歩んだ道と交わってもならぬ。それが必定」


つまりは、一筆書きできるようなひとつに連なる道のりでなければいけない。



「うげっ…」


煌が脱落しそうな勢いだが、俺はすかさずレイに聞いてみた。


「お前はこういうのは大丈夫だな?」

「もちろんさ!!　僕は頭がいい美リスだからね!!」


レイは、仰け反ったふかふかな胸を、小さな手でぱんと叩いた。

大きな尻尾が得意げに大きく左右にゆれている。


「マジか!?　俺リス以下か!?」

「イヌだからね!!」


テトリスのゲームの時にも思ったが、空間処理能力というのか、それが二次元であれ三次元であれ、レイは全体像を把握して、瞬時に最善策を考える能力に優れている。


「ねえ、ゴボウ。僕は今からもう鉄の胡桃を"ポイポイ"
していいの?」

「いや、まだですぞ、レイ殿。一の石碑から、開始くだされ」

「わかった!!　英雄は遅れて登場だね!!」

「お～ヒーローのドチビ。それまでふんぞり返ってないで、攻撃してくるスクリーンをのけてくれよ。で、銃は極力使わないこと。あれは最終手段。今は早く9個目の石碑に行き着くように、ただ移動を邪魔するものだけを弾き、最低限に動け」

そして煌は目で俺に伝えてくる。


"簡単にコトが運ぶような気がしねえ"