シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「セリカ、後で沢山愛の胡桃を上げるからね。僕の求愛の胡桃だよ。ふふふ。ちょっと待っててね、戦地にいるオスには今、成し遂げねばならないことがあるんだ。僕がいないと、皆困るんだって。だから求愛は後でね。後でらぶらぶしようね」
玲の声で。
俺と煌の間から、芹霞を奪い取って求愛宣言。
外見上は、小さいリスが、同じくらいの大きなさのへのへのもへじの人形に抱きついているのだけれど。
……なんだろう、このもやもや感。
「なあ、櫂。あのチビは、芹霞と名がつけば、異種だろうと、どんないい加減な顔でもいいんだな。けどよ、俺……芹霞が最低限、人間の顔をしていて欲しいと願うのは、リス以下ってことだろうか」
煌が泣き出しそうな顔で俺を見る。
「いや……お前だけじゃないさ。俺なんか……ぽつんとしているセリカに手を伸ばさず、従兄に妬いてしまった。リスも失格だな」
「櫂……」
「ねえ、式神ちゃん達、仲良くしてよ、ねえ」
翠はタマキとナナセに声をかけている。
どうもナナセがタマキから逃げだし、セリカの元に行きたいらしい。それを阻止しようとしたタマキが、突如拳になった両手をナナセの量コメカミにぐりぐりと押し付け、ナナセが両手を挙げて…多分SOSを求めているのだろう。
その時、煌の上に居るセリカがすくりと立ち上がり、飛び降りたかと思うと、煌が握っている巨大な偃月刀を奪い取り、ぶんぶんと回転を始めた。
それはさすがに誰もが驚いた。
セリカは慣れた手付きで偃月刀を振り回して、逃げるタマキを追い回していく。
「一応……凄い式神なんだろうな、うん。過去俺の偃月刀……あれを自由自在に振り回せたの、リアル芹霞とへのへのセリカだけだ」
「リアルの芹霞?」
「ああ。あいつ……ぐだぐだしてた俺にキレて、あれ振り回して俺を脅したんだ。素人とも思えねえ太刀さばきで。紅皇の妹を侮ってはいけねえぞ、櫂」
………。
芹霞……。
会いたいな、例え記憶がなくても。
例え玲の元でも、笑っている本物のお前を。
「ほほほほほ」
気づけば、目の前にまたふわふわと吉祥が浮かんでいた。
「櫂殿、癒してさしあげようぞえ?」
そう小さな手を伸ばしたから、俺は頭を横に振る。
「せっかくだが、まだ必要ない」
癒しなら、本物が欲しいんだ。
貪欲な俺は、消える脆いものに救済は夢見ない。