シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
やがて翠は、肩で息をつきながらも、三体の式神を喧嘩させずに使役できるようになり、その両肩にタマキとナナセを乗せ、そしてセリカはレイの隣に座って落ち着いた。
「また時間食っちまったけど、人数は揃ったし、これ以降はぱぱっといけそうだな」
朗とした煌の言葉に、俺は頷き後ろの石碑を促した。
「ではここの石碑だが…」
「小猿は少し休ませよう。この新たな三体のどれかを……使えるよな。式神の働きは、即期待出来るよな?」
煌の声にびくんと反応したのは、ナナセ以外の二体。
そしていやいやと首を振り始める。
「こ~ざ~る~!! この職務怠慢な連中をなんとかしろ!! 怠慢な奴らは"約束の地(カナン)"の奴らだけでいい!!」
「うわわ、待って…説得するから!!」
俺の目からは、職務怠慢というより、自分がいなくなることで、もう片方とナナセとの進展を危ぶんでいるような気がするのだが…。
その上に――、
「いやだ、僕のセリカと僕は一緒なんだ!! セリカは駄目!!」
レイがセリカを抱きしめて、離そうとしない。
「あのなあ、いつかは……」
「ダメダメダメ!!」
鉄の胡桃をがんがん煌の頭に打ち付けて、抵抗を始めたようだ。
煌が疲れ切った顔を俺に向けた。
「この…うっせえチビがふて腐れて仕事放棄始めたら厄介だからセリカは最後だ。まずここは無難にナナセを置かねえか。ナナセいいな、お前はひとりでも出来る子だよな」
すると翠の肩に居るナナセは、ぱんと胸をひとつ叩いて肯定する。
へのへのもへじの顔で。
そして翠の肩から飛び降りようとしたナナセより早く、くるりと回転しながら飛び降り、スタスタと石碑に向かうのはタマキ。
その不可解な動きに呆然としていた俺達の前で、タマキは石碑の前に立つとこちらに向き返り、首を斜め上にくいと動かして、早く行けとばかりに合図する。
「ナナセを危ない目に遭わすくらいなら、先に自分が行く…ということだろうか…?」
朱貴の七瀬に対する犠牲精神を思えば、恐らく…そんなところだろう。
「なんかさ、無駄に格好いいよな、へのへのもへじ人形のくせに」
煌が複雑な顔をしながらぼやいた。
そしてタマキがセリカに顔を向けると、やがて渋々というようにセリカが頷いた気がした。
そしてナナセに顔を向けると、ナナセが快くこくりと頷く。
さすがに会話がなければ、どんな会話を経て頷いているのかよくわからなかったが、それを煌が翠に訊いていたようだ。
「こいつらの会話? ああ、わかるよ。『先陣切るんだから、この借りはあとで返せよ。シマを独占三時間』ってセリカに。シマには『今日の夕飯はカルボナーラだぞ』って」
………。