シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「四」の石碑を背後にした途端、爆風が俺達の髪を揺さぶった。
置いたナナセの力は、俺と同じ風系列なんだろうかと思い、振り返って見れば……、
「おお、ナナセすげえや。あれ…玲と遠坂の格ゲー並だぞ?」
ナナセは迫るスクリーンに向けて、体術で応じていた。
その身のこなしが凄まじく早く、俺達の目で見てやっと動きが掴めるぐらいで、その上破壊力はかなりあるらしく、青い光を蹴りで反らすという荒技まで披露していた。
「あの青い光、蹴りでなんとかなんのかな」
「……煌、生身の俺達では…試すだけ危険な賭けだ」
青い光に対抗出来る、頑強な身体を作り出した翠は、もう創り出す必要がないのを判っていて、煌がまた肩車をして走っている。
煌なりの「お疲れ様」の気遣いなんだろう。
これから来る石碑の担当の為に、体力を温存させたいらしい。
そして、黄色で刻まれた「五」の石碑には吉祥を置く。
「吉祥ちゃん、頑張ってね」
「ほほほ、翠殿……またお会い致しましょうぞえ? そうじゃ、翠殿。これをわらわの代わりに。翠殿をお守りします故、しっかり握っていて下され」
吉祥は片方のツインテールから何本か髪を抜き、翠に手渡した。
「ほほほほほ」
最後まで独特の笑い声を響かすだけで、俺達が背を向けても特別な音はしなかった。
微笑むだけで、吉祥はスクリーンを弾くからだと思う。
「なあ小猿。お前ぞえぞえサクラとあまり会話してなかったよな」
「あ……うん。葉山だからなのか、声かけづらくて…。あんまり心で会話も出来なかったし…。だけどお守り貰ったんだ。じゃーん、葉山の髪の毛。優しいよね、葉山…。俺のためを思って葉山が、自分の一部を俺にプレゼント…」
「優しいのは桜じゃなく、ぞえぞえの方だろ。しっかしなあ、黒髪握りしめた、こんなでれでれ小猿…本物の桜が見たら、絶対蔑んだ目を向けてくるような気がするけど…。まあ小猿がいいならいいけどよ」
吉祥を先頭に無くして走る俺達には、再びスクリーンの手が襲いかかる。
だが吉祥と競い合うように走ってきたせいか、スクリーンの動きが当初よりやや遅く感じるのは、俺達がさらに速度慣れしたのと、翠に手渡された"お守り"のせいもあるらしい。
「すげえ、葉山の髪の毛!! 俺……愛されてるって感じ!!」
「小猿、頼むから、士気を低下させるようなことをほざくな!!」
………。
そこまで桜と仲良くなりたかったのだろうか。
桜が、翠を邪険にしすぎていたとか?
翠の興奮度は凄まじい。