シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「神崎、やばやば!!」
「由香ちゃん、踏ん張って、邪眼で…えい……っ」
「だめだよ、踏ん張ればボク……オトメじゃなくなる」
そんな時だった。
隣にいた玲様が青く発光を始めたのは。
そして背にした壁を足で蹴ったかと思うと、その反動を利用して宙高く舞い、スカートの裾を少し焦がしながらも、上部からひらりと芹霞さん側についた。
そして青い光の中にふたりを入れ、玲様が目を瞑ったままの苦しげな顔を天井に上げた途端、炎の風の軌道は少しずつ押されたようにずれてきて、私達側の方、さらには斜め遠くに向けて風が走り抜けた。
玲様が結界を張ると同時に、その力の威力で押し返すようにして風の向きを調節してくれたのだ。
しかしこのままでは持久戦。
力が止むか、玲様が降参するか。
そんな時だった。
「朱貴が……呼んでいる」
七瀬紫茉が、ぼんやりとした目でそう言ったのは。
「朱貴が、ああ……周涅やめろ!!」
そして飛び込んでしまったのだ。
その炎の風の中に。
「七瀬!?」
「紫茉ちゃん!?」
結界もなにももたないただの少女が、朱貴の一大事に危険の中に飛び込んだ。だから私は、
「桜!?」
私の出来る限りの結界力をもって、紫茉さんを包み込むようにイメージしながら追いかけたんだ。
初めて他人を自らの結界に入れたのは、もしかすると玲様への対抗心があったのかもしれない。
ただ壁に張り付いてやり過ごすことを考えていた私の前で、玲様は芹霞さん達を守って見せたから。
私には紫堂の力はないけれど、結界は作れるというのなら。
私だって守ることができるのだと、……それは自己満足にしか過ぎないかもしれないけれど。
やがて炎の力はぴたりと止まり、七瀬紫茉が叫んでいた。
「やめろ周涅ッッ!!」
そこには、紅皇の出で立ちながら、ぐったりとしている朱貴の髪を鷲掴みにして、今にも心臓を貫こうとしている周涅の姿があった。
一瞬、私の脳裏に……横須賀港での櫂様の姿が思い浮かぶ。
「朱貴ッッッッ!!!!」
その声に、ぴくりと動いた朱貴は。
周涅が手が心臓に届く瞬間、顔を上げ……七瀬紫茉に微笑んだ気がした。
愛しそうな、切なそうなその顔を。
「し……ま……」
だから――。
「ぶじ…で……よかっ…た……」
だから私は――。