シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「誰だ、邪魔するのはああああ!!」
だから私は、周涅のその手に糸を絡めて、全力でその動きを止めようとしたのだ。
周涅の手を拘束しなければ。
櫂様のようなあの姿は見たくないその一心で、ただ我武者羅に。
過去何度も周涅によって、私は矜持と共に、私の相棒とも言える糸を燃やされた。
絶対なる力の差を見せつけられて。
そして先ほど、私の矜持が枷にならぬよう、自ら捨てたその同じ武器を使って、今度はどうしても周涅の動きを封じねばらなかった。
私にとって朱貴は、体を張るだけの崇めるべき存在ではない。
たとえ紅皇の姿をしていても、私の中での紅皇は緋狭様ただひとり。
しかし――
朱貴は何度も私達を救ってくれたのだ。
その心がある限り、私は……櫂様と同じような姿を、朱貴にはさせたくなかった。
愛する少女の目の前で、そんな無残な姿にさせたくはなかった。
残された者の苦しみがわかるからこそ。
生きる為に。
生かす為に。
その想いだけで周涅の両手に食い込むように巻き付いた糸は、金色に光り輝き、太鎖と形状を変えていく。
周涅の抵抗に屈しないほどに、強固な拘束具に変わりゆく。
強くなれ。
もっと強くなれ。
櫂様を守れなかった弱い私を消すほどに。
「手を使えなくしても足があるッッ!!」
そんな笑い声が響いた瞬間――。
「なにをしているんだ、周涅ッッ!!」
パシーン。
倒れ込む朱貴を胸に抱え、兄の頬を平手打ちをする七瀬紫茉。
「あたしが、朱貴を殺させないッッ!!」
ああもう大丈夫だ。
朱貴が生きたまま彼女に庇われているのなら、周涅もそれ以上手は出せないに違いない。
それは確信だった。
「……紫茉ちゃん。いい子だから朱ちゃんをちょうだい」
「嫌だ」
七瀬紫茉はぐったりしている朱貴を、ぎゅっと抱きしめて周涅を睨み付ける。
「随分と反抗的な目だね、紫茉ちゃん。朱ちゃん如きに、周涅ちゃんを敵に回そうとするの?」
「敵にしようとしているのはお前だろう!! どんな理由があっても、朱貴を殺すな!! 朱貴だけじゃない、人間を簡単に殺すな!!」
「いやだなあ、周涅ちゃんが殺人鬼みたいじゃないか。殺すつもりはないよ、周涅ちゃんは。昔も今も、可愛い奴をいたぶっているだけさ。愛情表現だよ」
「そんな愛情なんて認めない!! 現にお前は、朱貴の心臓を貫こうとしてたじゃないか!!」
「ねえ紫茉ちゃん。そんな目を周涅ちゃんに寄越さないでよ。周涅ちゃんはお兄さんだよ? 紫茉ちゃんはお兄ちゃん嫌い?」
おどけた口調。しかしその目は至って真剣で。
そこには狂気に近いものがあった。