シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「嫌いなわけないじゃないか!! たったひとりの肉親なんだから」

「だったらさ…。朱ちゃん庇わずに、周涅ちゃんのこの手の拘束を取ってよ。優先順位が違うよね?」


わざと、朱貴に聞かせようとしているのか。

七瀬紫茉を愛しているのを知っていて、朱貴を殺そうとした男を優先する姿を見せつけて、恋心さえも踏み付けようとしているのか。


「できるわけない!! それをとったらお前は……」


「ねえ紫茉ちゃん――。

君は朱ちゃんと周涅ちゃんと、どっちが好きなの…?」


それは突然過ぎる不可解な質問で。



「家族としての親愛の情じゃないよ。

……男として」



七瀬紫茉の顔が、ぽかんとしたまま固まった。



「周涅ちゃんも、朱貴ちゃんも。

紫茉ちゃんをひとりの女性として愛しているといったら?」


――え?


場には、妙な緊張感が漂う。

ここで傍聴しているのが居たたまれないような……、全身を針で突かれているような……、ああこれが、"禁忌"というものを目の当たりにした結果なのだろうか。


両手を私の鎖に繋がれたまま、七瀬紫茉に向けるその顔はあまりに真剣すぎて、私は呼吸を忘れた。

悲痛さも軽薄さもなく、ただ毅然と。

それは熟考の末に導かれた結論であるかのように、衝動的に述べた言葉に動揺している……という様子は見られなかった。

朱貴の想いは、彼女以外既知たるもの。

しかし周涅の、執拗なまでの妹への偏愛は、異性に対する情が起因していたと!?

それで彼女を助けるために、木場で不特定多数の相手をさせようとして、さらには玲様の子供を身籠もらせようと?


私は、その心理が理解出来なかった。

私は感情の機微には疎いかもしれないが、最低限の常識はあると思う。その常識内で考えて、周涅の行動は異常と思えた。



目が点となったまま、固まる七瀬紫茉。

そんな彼女を、食い入るように見つめる周涅。


やがて周涅は目を伏せると――。



「――…なあんてね。久々に見るね、紫茉ちゃんの思考がストップしたその顔!!」


今までの真剣さを全て拭い去るかのように、体を派手に仰け反らせて、あははははと笑いだした。



わからない。

周涅は、妹を異性として愛しているのか否か。

朱貴に辛くあたるのは、嫉妬心からなのか否か。


私は、そこまでの感情を周涅の顔からは読み取れなかった。

冗談だといわれた方が、しっくりくるしなんだかほっとする。


周涅お得意の、笑えない冗談だろう。

その直撃を受けた七瀬紫茉からは、先ほどまでの攻撃性は失われている。


それが狙いだったのか。

そこまで彼女から敵意を向けられるのは、嫌だったのか。


それは……どんな理由から?

ああ、考えれば堂々巡りになりそうだ。


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