シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



うしろに気配を感じれば、玲様達が揃っていた。


玲様は冷ややかな面持ちのまま、周涅を見据え、芹霞さんと遠坂由香の顔は……わかりやすいほどにはっきり動揺していた。


「あらら~。お揃いなのね~。形勢逆転? ははははは」


まるでそうは思っていない、どこまでも軽い口調で。

その余裕がなにから起因しているのかがわからないのが不安だ。




「いやだなあ、皆してそんな目で見ないでよ。朱ちゃんが構ってって言ってきたんだよ? 朱ちゃんは超ドMだからね。痛めつけられてどんな姿になろうとも、それでも周涅ちゃんに痛めつけられに来るんだよ。ん~、言い方を変えれば、学習能力がない、かな」


笑う、笑う。

周涅は、無慈悲な顔をしてどこまでも。

そして私達がぞっとする、氷皇の…あの酷薄めいた顔となり、恐ろしく低い声音にて口調を変えた。


「立場をわきまえずして、紫茉を望むからこうなる。何度も何度も叩き潰し、その輪郭を潰してもまた蘇って刃向かってくる。醜く汚らわしい、この……蛆虫が」


それは憎悪を越えて、人間以下のものを見るかのような蔑んだ眼差しで。



パシーン!!


再び七瀬紫茉が周涅の頬を叩いた。



「撤回しろ、周涅!! 朱貴はれっきとした人間だ!!」

「ははははは。……だって、朱ちゃん。よかったね~」


変えられた口調。その含みは、何を意味するのだろうか。

朱貴は人間ではないとでも言いたいのだろうか。

ころころ変わる周涅の態度から、なにが真実なのか見いだせない。


「もう意識あるんでしょう、朱ちゃん」


するとそれに呼応したように、乱れた煉瓦色の髪が動いた。

七瀬紫茉を手で押し離し、仰け反るような姿勢から、瞑られていた目が開いていく。

濃灰色の瞳は、痛いほど真っ直ぐだった。


「朱……」

差し伸べられた七瀬紫茉の手を、朱貴はパシンと払いのける。

意識あればどこまでも拒み続ける、それが麓村朱貴。


意識が朦朧としている間は、どこまでも一途に彼女の名を呟き、その面影を追い求めているのに、なぜここまで拒絶するのか。

七瀬紫茉は、寂しそうな顔をして、弾かれた手を摩っていた。


届けたい想い。

届けたくない想い。


本音と建て前の感情を持て余し、なおも朱貴は彼女を庇うように立上がる。痛みつけられてもそれでも体を張る姿は、木場でのあの淫猥な光景にも繋がってくる。

どんなに肉体が穢れても、心までは穢されない。


どうしてそこまで紫茉さんを愛せるのだろう。

どうして紫茉さんの愛の見返りを求めないのだろう。


私はよく判らない。



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