シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「紫茉ちゃんの前でもう1ラウンド戦ってみる、朱ちゃん? 今度はもう少し本気で相手してあげるけど」
そう言うと、周涅は私の鎖を引きちぎり、真っ正面に立つ朱貴を見据えた。
顔つきは笑いをとっているが、赤銅色の瞳には、強者の持つ威圧の光が灯っている。
周涅はその圧倒的な力で、嬲るように私達を翻弄してきたけれど、それはまだ嗜虐的な"遊び心"があった。
だが朱貴に向ける目には、奴隷以下の"モノ"に向けるような絶対的な侮蔑の光がある。人として認めておらず、朱貴を痛めつけるのは当然という驕りがある。
それは、木場で雄黄にもそれを感じた。
朱貴とは、一体何者なんだろう。
どうして皇城からこうした扱いを甘んじるのだろう。
そして周涅。朱貴の心臓を貫こうとはしていたが、私が止めずにいたら本気で貫いたかどうかは、私は懐疑的だった。
周涅は朱貴の存在をはっきりと忌んでいたぶっているのに、七瀬紫茉のために"我慢"して、朱貴の存在を認めて生かしているように思うのだ。
朱貴も周涅にいい感情を抱いていないのに、七瀬紫茉のために"我慢"していたぶられている。
七瀬紫茉を介したふたりの男は互いに"我慢"して、上下関係を築く。
そこまでさせる七瀬紫茉とは、どういう存在なんだ?
「周涅……」
その七瀬紫茉が、拒まれたばかりの朱貴の横に果敢に立ち、小瓶を見せた。
それは――『ジキヨクナール』。
「これはどういうことだ?」
――大野香織だからね!?
「お前の連れた少女が、砕かれた。この薬を作っている機械に。そして……なんで先輩のカバンもあったんだ、あそこに!! お前は、一体なにをしてたんだ!! なんでこんなものを作った!?」
血に染まった彼女の服。その血痕は、生きて助け出せなかった彼女の後悔のように、鮮やかに白いシャツにこびりついていた。
「これをあたしを含め、多くに飲ませてなにをしようとしていた!? 自警団か!?」
「自警団……。まあ、無関係ではないけれど、それは二次的なものさ。本来の目的は違う。そうだよね、朱ちゃん?」
朱貴は無反応で、ただ周涅を見つめるばかり。
その目は……なぜか悲しげだった。