シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「これが開発された目的はふたつ。ひとつは、羅侯(ラゴウ)の力の対策として。ふたつは、紫茉ちゃんを生かせるため」
「は!?」
「羅侯(ラゴウ)に抗するほどの呪詛的要素での補佐がなければ、君の心と体は弾け飛んじゃうよ? 現に君は、熱と痛みに苦しみもがいているじゃないか」
「なんであたしが……」
「君が北斗の巫女、羅侯(ラゴウ)に関わる子だからさ。蠢く羅侯(ラゴウ)の力に反応してるんだ。紫茉ちゃんは羅侯(ラゴウ)に連動しながら、対抗手段ともなる貴重な存在」
「あたしは何の力もないただの人間だっていうのは、お前だって知っているだろう!?」
「だから、羅侯(ラゴウ)が降臨する時期が近付くにつれて、比例的に君の"発作"は多くなったじゃないか。君に力があれば、そこまでの発作にならずにすんだんだよ。つまり、そんな薬は必要なかった」
「……そんな……」
七瀬紫茉はへたりと、その場に座り込んでしまった。
「力の自覚なくとも、先代…母から"血"として力を受け継いだ北斗の巫女を死なせるわけにはいけない。君は重要なんだよ、だから皇城は君に位階を授け、周涅ちゃんだってわざわざ薬作りに、選ばれた子をここに連れていたんじゃないか」
私は皇城の事情はわからない。
しかし皇城翠も、羅侯(ラゴウ)だの妖魔だのを重要視していたし、それと関連するような出来事の中に、私はいる。
絵空事と弾いていたわけではないけれど、どこかそれは別の物語の気がしていたのだ。
七瀬紫茉が北斗の巫女という役職にいて、位階を貰っているということも過去聞いてきたが、そういうものかと他人事で聞き流していたのは事実。
北斗の巫女という単語に重要な意味を見いだせなかった私は、そのために人間が蠱毒化されたというゆゆしき事態に、はじめて七瀬紫茉という少女の存在が特殊だったのを思い知る。
彼女は――羅侯(ラゴウ)中心の皇城家のキーパーソンなのだ。
周涅と朱貴、皇城という家にとっても。
その彼女と子を成せと言われた玲様は、紫堂のキーパーソンなのだろう。
二家の思惑は、きっとどこかで交差する。
それは、玲様に訪れた"不幸"な境遇に繋がる。
私にとって、羅侯(ラゴウ)という非現実的な存在が、現実世界に降臨するということの意義を強め、皇城が羅侯(ラゴウ)というものを家訓にそって敵対して封印して動いているという事実を重要視しなければならないと思った。
周涅の今の目は真剣であり、そして朱貴の反応からも、周涅の言葉に偽りはないように思えたから。
だとしたら。あくまで皇城は、周涅は――藤姫のような私心によるものではなく、家訓に刻まれた正義に従い、羅侯(ラゴウ)に関わるキーパーソンたる巫女を生かすために、変形的な蠱毒を行い、少女達を犠牲にしたことになる。
巫女が死んだら羅侯(ラゴウ)に対する対抗手段がなくなるというのなら、『ジキヨクナール』の存在は……糾弾出来るものなのだろうか。